「なんか……手伝いにきた意味なかったね」


少し残念そうに呟いた滝さんは目の前にあるケーキをぼんやり眺めた。




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「日吉ー?手伝いに来たで!」

「侑士だけじゃ心配だから俺も来てやったぜ」

「俺にとってはお二人がいることが一番心配です」


ここまできたら、俺も誰にも負けないようなケーキを作りたい。

だからこっそり、前日の今日、学校の調理室で作ろうとしたらこの五月蝿い二人がやってきたのだ。


「あの。まず初めに言っておきますけど、邪魔するなら帰ってくださいね。
あと、もう邪魔なんで帰ってください」

頼むから早く出ていってくれ。

とっとと作ってしまいたい。


「でもよー日吉。


お前ケーキ作れんの?」


「………気合いです」


「日吉、気合いでケーキは作れんで」



俺に任せろと言わんばかりに腕捲りをした忍足さんを俺は全力で止めた。


「忍足さん、あんたこの間クッキーを気合いで作っただの言って、鳳に食べさせて殺しましたよね?」

「殺してへんし…
いや、クッキーは気合いやろ。

ただケーキは自分が思うとるより繊細なんよ?」

「あんたケーキの何を知ってんだよ!」



俺と忍足さんがバトルを繰り広げていたら、ガラガラっと調理室の扉が開いた。


「あー!やっぱケーキ作ってるC」


くっそおおおお!!

どうしてこうも五月蝿いのばっかり集まってくるんだ!
樺地はどこに行ったんだ。アイツさえいればどうにかなる気がするのに…!



「うん、見た感じ困ってるね!

そんな君たちに救世主登場〜!!」




は?救世主??


芥川さんに呼ばれて扉の向こうから現れたのは……





「「「え??」」」




俺たち三人の声は見事に揃った。









「ったくよ、こんな材料でどうやってケーキ作る気だったんだぁ?」


今、俺の目の前にはとてつもなく不思議な光景が広がっている。


慣れた手つきでどんどん事を進めていくこの人、立海テニス部の丸井さん。



いや、氷帝はいずこ。


まあでも、この人に憧れている芥川さんだからこそ連れてこられた救世主だ。

今は存分に俺たちを救ってもらおう。


「おい、日吉!お前も手伝えよ」

「そうやで。この係お前やろ」


いつの間にやら丸井さんに上手く使われている先輩二人が俺に指図してきた。


「手伝いたいのは山々ですが、俺がぶち壊してもいいなら喜んで」
「やっぱ座っといてください」


しかし本当に丸井さんは凄い。

どんなケーキができるのか楽しみになってきた。


「ケーキ作んの、見てる方も楽しいだろぃ?」


俺の視線に気づいた丸井さんが笑いながら話しかけてきた。


「はい、なんかワクワクします」


「俺も小っせー頃、見るのが楽しくて仕方なかったなー」


思い出すように微笑む彼の姿は、試合とはまた違って、純粋にケーキ作りを楽しむ無邪気な少年だった。



小さい頃から、ケーキに楽しみを感じ続けているこの人をちょっとだけ、尊敬したのは秘密だ。