「跡部ー」

「忍足か…何だ」

「実は、今度の一年生歓迎パーティーで"俺様のたこ焼きに酔いな!〜2012〜"のコーナーを設けてほしいんやけど…」


それはいつもと変わらない、穏やかな時間だった。

穏やかな時間…のハズだった。



「却下。つーか2012って、2011もなかっただろうがアーン?」

「えー、でもみんな氷帝の天才が作るたこ焼き絶対食べたいやん!?」

「よくそんなこと自分で言えるな。恥ずかしくねぇのかよ」

「日頃から俺様とか言うとる跡部にだけは、そんなこと言われとうなかったわ…」



何故か呆れる忍足を蔑んだ目で見ていると、不意に背後から何かが忍び寄る音がした。

振り向き、辺りを見渡すが何もない。


「どないしたん?」

「いや…今後ろに誰かいた気がした」

「ストーカーとちゃうん?跡部モテるし」

「俺様のメス猫たちはストーカーなんてことしねぇよ。そこら辺は弁えてんだ」

「俺様の…メス猫たち…さすが跡部やな」


また呆れながら話しを始め、いい加減部活に行きたいと思い始めた矢先、また音がした。

…しかも今度は、より近くで。


「………?」

「なんや、またかいな」

「おかしい。確かに音がした」

「ホンマかいな〜」

「嘘じゃねぇ。気味悪ぃな…」

「……、跡部!」

「は?」



───ガンッ!


突然、何かに包まれたのと同時に、鈍い音が廊下に鳴り響いた。


視界が開けたらかと思えば、床に倒れている忍足と、金属の棒を手に持つ男が目の前に立っていた。


「忍足、大丈夫か!?…おいテメェ、誰だっ」

「チッ…」


問いただせば、舌打ちをして走り去る男を追おうとしたが、俺を庇って殴られた忍足を置いていくわけにはいかない。

やばい、後頭部から流血してる。

「うっ…」

「忍足!」

「はよ追って…」

「馬鹿野郎、お前残して追えるかよ!とりあえず今は病院に…」



血がついた手を見て、携帯を持つ手が震える。


(何でだよ…何で俺を庇ったんだっ!)


もう頭の中も心の中もぐちゃぐちゃで、何も考えることはできなかった。












「大事には至らないそうだ。…ただ、いつ目を覚ますのかはわからないらしい」


医者と話し終えた萩之介が病室に入り、ベッドで眠っている忍足を心配そうに見ながら説明してくれた。




「侑士の奴、カッコつけてんじゃねぇよ…」


泣きそうな顔をして、俯いた向日が忍足の手をギュッと握りしめてから、病室を出た。そんな向日を追って日吉も、同じように忍足の手を少しだけ握ってから病室から出ていった。


「結局、跡部を襲おうとした奴は誰だったんだよ」

「どうやら、俺じゃなく俺の家に恨みのある者の犯行だったらしい」

「だからって暴力は絶対にダメですよ…絶対に」

「ウス……」



それに、俺を庇って忍足が傷つく必要もなかったんだ。

打ち所が悪ければ、もっと深刻だったかもしれない。


「侑ちゃんって、いっつもこうだよね。いっつも、誰かを守ってる」


ジローが俺の手を握りながら、震える声でそう言った。



「馬鹿、か…お前は」



こいつの言う通りだ。

いつも、自分よりも他人を優先してばかりで、もしかしたら自分を守る術も知らないのかもしれない。



「…関西人に、馬鹿は禁句やで」

「お、したり…」

「傍でごちゃごちゃうるさいから、起きてもうたわ」



優しく笑う忍足に喉の奥が熱くなった。




「跡部のせいやない」


…違う、俺がもっと注意していれば、こんなことにはならなかった。


俺を射抜くような視線から、目を離すことができない。


「ほら、俺無敵やし。せやから大丈夫」


何が無敵だ。

無敵なら血くらい流すな。


「忍足…」


安堵と罪悪感が混ざって、流れるように目から溢れる。


ボロボロ泣き始めた俺に抱きついてきたジローも、みんなも泣いてて、忍足だけが困りながら笑っていた。














「じゃあ明日から学校には来られるんだな?」

「待たせてしもうて堪忍な〜」

「テメェなしでも平気だけどな」



あれから3日後、一応色々な検査をして異常なしと診断された。

やっと退院できるとテンション上がってナースをナンパしまくっている忍足を偶然見舞いにきていた俺様が見つけて、病室に連れ戻したのだ。



「つーかよ、お前いつから目ぇ覚めてたんだよ」

「えーっと…確か滝が病室に入ってきた辺り?」

「なるほど、普通にムカつくじゃねーの」

「花瓶下ろして!怖い怖い!」

「そんな早くから意識あったなら、とっととそのアホ面見せろ」


それだけ言って、忍足の好きそうな本を投げつけて病室を後にした。


さて、あいつは本の最後に俺が書いた『あの時はありがとう』の言葉に、いつ気がつくのだろうか。





120909



コウ様、リクエストありがとうございました!


こんな感じに仕上がりましたが、いかがだったでしょうか…!?

みんな泣かせてしまって、しかも跡部がいつになく弱気になってしまい、これは大丈夫なのだろうか…と思いながら書かせていただきました(笑)


最後は素直にお礼が言えない跡部が頑張った結果です^^


それでは、改めましてリクエストありがとうございました(*・ω・)ノ


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