「今日で最後だから、これ」

「…何だこれは」


笑顔で謎の袋を押し付けてきているこの男が、氷帝に来るのもどうやら今日で最後らしい。
部員たちもこいつの桁外れなプレイに色々と刺激を受けていたのでまあいい…良い思い出として心にしまっておくとするか。
そして今、幸村から渡されたこの謎の袋は後で宍戸にでも開けさせよう。
何が入ってるのか検討もつかない…



「あとさ、今日で俺が氷帝に来るの最後だってみんなには伝えてないからさ」

「伝言は承らねえぞ」

「うん、だと思ったからレギュラーだけなんだけど、手紙書いてきた」

「お前にしてはそんな面倒なことするなんて珍しいじゃねえの」

「まあね!」

褒めたのがいけなかったのか変にテンションが上がっている幸村を見て溜め息がこぼれる。

頼むから、突拍子もないことを言い出さないでほしい。


「…あとね、忍足にだけ伝言頼みたいんだけど、ダメかな?」

「忍足か…まあこの前のこともあるしな。あいつだけなら良いぜ」

幸村に派手に殴られた忍足は顔が酷いことになったものの、テニスはできるようだったので学校には来ていたが、腫れが引くまで可哀想なくらい落ち込んでいた。

そりゃあ好きな奴から本気で殴られれば落ち込むだろう。

それにしても恐ろしかったぜ…幸村…



「そのさ、ごめんって言っといてくれない?」

「…は?」



気まずそうにそう言ったコイツは、こんな人間だっただろうか。
俺が知る限りじゃ人に言われて、ましてや自分から謝るような奴じゃない。


「だから、ごめんって」

「…………」


やっぱりごめんって言ったよな…。

ごめんって、幸村意外の人間しか使える言葉じゃなかったのか?

え、しかも忍足にごめん?


「…言いたいことなんとなく分かるけど、俺にだって反省する心とか備わってるからね…?」

「あ、あぁ…」

「固まんないでよ…とにかく、伝言頼んだよ。俺もうあいつに合わす顔無いし…」

「あとべー岳人知らへんー……あ」

「あ」


言った側から現れやがってこの伊達眼鏡。空気を読め、空気を。


「お、おう幸村……と跡部やん。あ、おおお邪魔しましぶっ」


明らかに心を閉ざすのも忘れても焦りを隠せない忍足がまた戻ろうとした時、幸村が腕を掴んだことによりバランスを崩し壁に顔をぶつけた。
悪いな忍足。笑っちまったぜ…


「待ちなよ」

「それ先に言うてほしかったわ…」

「その、この間は…急に殴って悪かったね」

「………」


俺様同様、忍足も固まった。

いいか幸村。それが普通の人間の反応だ。


「…ええよ、別に」

「あと、前に電話で言ってたの本気?」

「…おん」

「ふーん」


ふーんって何だ!?気になるじゃねえか!

返事、返事はどうなんだ。イエスかノーだぞ、早く答えろ!


「俺、今まで言わなかったけど付き合ってる人がいるんだ。お前もよく知ってる奴なんだけど…」

「「はぁ!?誰や(だ)!」」


あ、ハモった。

じゃなくて本当に初耳だぞそれは。
俺たちの知ってる…真田?
いや確かあれは真田の片想いのはず。

…じゃあ、誰?



「だ、誰なんやそれ…」


忍足が震えながら、しかも泣きそうな顔をしながら勇気を出して聞いた。


「……ジャッカル」







その後、忍足は行方を眩ました。

別にホラーとかじゃねえぞ。

多分、色々と衝撃を受けすぎて大阪まで帰って従兄弟に泣きついてるんだと思う。


後日、幸村から手紙をもらったレギュラーが口を揃えて幸村は恐ろしい…悪魔、いや魔王だ…
なんて譫言のように呟いていた。

何でも手紙には別れの言葉ではなく

『しばらく忍足が面白いことになるだろうけど、それ俺の嘘に踊らされてるだけだから黙って見守ってやってね!』

と、そう綴られていたらしい。



…ったく、来なくなってからも苦労かけさせんな。







テメェのお遊びに付き合ってる程、暇じゃねえんだよ氷帝は!





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