ポーン、ポーン 「ふーん。君が跡部のお気に入りの日吉くん?」 「…はい?」 ラケットを肩にかけ、反対の手でボールを地面に投げつけは掴み…を繰り返しながら笑顔で近づいてくる幸村さん。 俺がこの世で最も苦手とする跡部さんが苦手な相手なだけあって、俺は相当この人が苦手だ。 「日吉くんって顔に全部出ちゃうタイプでしょ?顔に近づくなって書いてあるんだけど」 「なるべく自分の気持ちには素直に生きて行こうと心がけているんで」 扱いづらさは氷帝内でも天下一品な俺と、仲良くなろうだなんて思わない方が身のためだ。 「ちょっと君には個人的に聞きたいことがあってね。ちょっと付き合ってくれないかな?」 そんな俺の悪態とも言える態度に何のリアクションもなく、幸村さんは話をすすめた。 まさか二人きり…? なんだか…とっても面倒くさそうだ… 「単刀直入に言うよ。次期部長として、君は今何かしている?」 部室の脇にあるちょっとした木陰に二人で並んで座る。 あの全国区の幸村さんと並んで座るなんか、他の部員たちは羨ましいんだろうな…俺は練習できるお前らが羨ましいよ。 そんなことを思ってから、コートの方に向けていた視線を幸村さんに移す。 「…俺は部長を倒すことに意識を置いています」 「跡部を?」 「はい。跡部さんを倒した上で部長になりたいんで」 「そっか…」 俺の話を聞いてフッと微笑んだ彼はじゃあ赤也もそうなのかな…と呟いた。 切原…?あぁ、アイツも次期部長か。 「心配、ですか?」 「…うん、まあね。 三年生ばかりに囲まれてたから、俺たちが引退した後は放り出された状態になるだろ? 誰にも頼らないことも、同級生の誰かに頼ることもどっちも大切なことだ。 もちろん、赤也はそれらを全く知らない訳じゃない」 何でこの人は俺にこの話をするんだろうと思う半面、不思議と俺はこの話を聞かなければならないという義務を感じた。 「だけど多分、日吉くんや鳳には劣ると思う。 君は寡黙に部活をしているようだけど、何だかんだ言って誰かに頼ることもきちんと出来るからね。」 「いえ、そんなことは…」 「そんなこともあるんだよ。氷帝の部活を見てて思った」 「切原も幸村さんの気持ち、わかってると思います。 そんなに先輩方から思われてて気づかないことありませんよ。 だから俺から言えるのは もっと切原を信じてあげてください ってことだけです」 「…ふふ、君は大人だなぁ。俺もついつい親心のように赤也を心配し過ぎたかも」 そう語ったこの人は、部長の顔をしていた。 ていうか、そんなに切原が心配なら 早く帰れ。 120303 |