「チョコ…結局渡せなかった…」

「お前さんがトロいからそうなるんじゃ。昔から言っとろうが、トロいの直せって」

「だってー…」

「だってじゃない、だってじゃ。このままじゃせっかく作ったチョコが台無しになってしまうナリ」


コツン、と頭を拳で殴られた。

仁王とは昔からの幼馴染みで仲もまあまあ良い。

だから私が実は柳くんが好きなことも知っているし、相談や協力もしてくれた。


仁王の情報収集の能力はストーカー並みだからチョコの味の好みもわかって、張り切ってつくったはいいものの。

そうして迎えたバレンタインに、柳くんはどこへ行くにも女子に囲まれていて臆病な私は近づけなかった。とてつもなく恐かった。

そして昨日は結局、チョコは渡せず仕舞い。



「そういや告白もする予定じゃなかったか?」

「うん、渡すときに一緒にね…
けど今更いつ渡せって言うのよ」

「はぁ…全く世話が焼けるぜよ。
柳、俺が呼んじゃるけん渡して一気に告白しんしゃい」

「え!?何その急な展開!
待って、携帯しまってよ仁王ー!」

「おう参謀、元気か?

実はな、お前さんにどうしても渡したくて伝えたいことがある奴がおってな〜
今から昇降口に来てくれんか?」

ニヤニヤしながら携帯で柳くんと会話する仁王の胸をポカポカ叩いていたら、不意に仁王がダッシュで逃げていった。

…え、どうしたの?



「もしかして、君が仁王の言っていた俺に用事があるという人か?」

「え、柳くん…?」

「たまたま近くを通りかかってな。すぐに来れたのだが…邪魔したか?」


邪魔したか?って、何が?
柳くんなんか目、あんまり開いてないけどどこか遠くを見てませんか?


「えっと…うん?」

「ならば良かった。それで、用事というのはどういったことだろうか」


柔らかく微笑みながら訊ねてくる彼に心臓がドキドキしてうまく言葉を選べない。
こんなことなら予行演習しておけばよかったー!


「あ、あの…昨日渡しそびれちゃったんだけど、コレ。
良かったら受け取ってください!」

「もしや……チョコ、か?」

「うん…もう貰いすぎていらない?」

「はは、決してそんなことはない。嬉しいよ、ありがとう」

「よかった!…あとね」


ついに…ここここく、告白…!


「すまない。俺も言いたいことがあるのだが、先に言っても良いか?」

「…う、うん」


突然のことに動転して思わず頷いちゃったけど、何…怖いんだけど…


「実は、俺は君を前から知っていた」

「何で!?」

「話を最後まで聞いてほしい。

仁王とよく、話しているところを幾度となく目撃していたから俺はずっと、君は仁王と交際していると思っていた。
先ほども互いに近距離で会話をしていたから、そう確信した矢先にチョコを渡された」

「………」

「こればかりは、データ不足で確率が計算できなかった。
だから、期待と言うものをしていいのだろうか」


真っ直ぐこちらに向けられた視線から、私は離すことができなくて息をすることすらままならない。

"その先を言ってほしい"だなんて臆病な私がこんなことを思うなんて。


ゆっくりと近づいてきた柳くんがすごく優しく抱き締めてきた。

あの夢にまで見た彼に抱き締められてる。どうしよう、心臓がうるさい。






「好きだ」











眺めるだけの恋は終わり。



120219




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