――ガタッ!! 「は!?何の音だよ…って、跡部?」 侑士の告白に反応する暇もなく生徒会室から大きな音がして、振り向けば青ざめた跡部が開けた扉を持つ手を震わせていた。 「おおおお前それは、本気で言ってんのか……」 「まさか自分も幸村のこと好きなんか!?」 「んなわけあるか!!」 「二人ともうるせぇよ!」 ここが廊下であることも忘れて、声を張り上げる。 誰にも言っちゃいけない話だったはずなのに、いつの間にか通りかかった生徒や先生までも知られてしまった。 こいつ頭良い割りにやっぱバカだな。 とりあえず、今にも取っ組み合いを始めそうな跡部と侑士を生徒会室へ押し込む。 「二人とも落ち着け。 侑士は何で幸村が好きな癖に嫌われるような素振りばっかすんのか、跡部は何で侑士が幸村を好きなのに反対してんのか…説明しろよ」 「照れ隠しです」 「お前タラシじゃん、百戦錬磨的キャラじゃん。なのに何だそのドヤ顔からの発言」 「まあ聞けや。本気で好きになってしもうて、どうしていいか分からんようになるタラシもおるんや」 「少女漫画によくあるパターンじゃねぇの」 「何故お前が少女漫画のアレコレを知ってるんだってツッコミは省略な。 …で、侑士はそんなことが理由で幸村に喧嘩売ってんのか?」 「そんなことやあらへんで! 俺、生まれて初めてあんな人を好きになったんや。 せやから…ほんまにどう接していいんか全く分からんのや」 「侑士…」 「おい忍足、本気なとこ悪いが幸村だけはやめとけ」 どこか遠くを見つめる跡部。 こんな跡部はそうそう見れない。 何を知ってるのかさっぱりわかんねぇけど、本当にやめておけってことなんだな…… 「せやかて好きなもんはしゃーないし、今更好きやないなんて思えん。 結構純粋やな、俺…いたっ」 どこの口が言ってんだよ!殴るぞ! 蹴ったけど。 「とにかく幸村を好きになって幸せになれた奴なんていねぇぞ… 真田が良い例だ」 深刻そうな顔で俯く跡部に俺はやっと事の重大さを知った。 跡部をこんな風にさせるくらいだ。相当酷いんだろう。真田ドンマイ。 「真田は真田、俺は俺や。この打たれ強さでどうにかなるやろ」 「そこまて言うなら止めねぇが、後悔しても知らないからな」 言いたいことを言った様で、跡部は仕事に戻ってそれ以降は何も話さなかった。 俺は跡部の邪魔にならないように侑士をまた廊下まで引っ張り出す。 「なぁ…さっきの話本当だよな」 「跡部は嘘なんて吐かんからな」 「で、お前どうすんの?頑張んの?」 「当たり前や!あんな話聞いてしもうたら尚更やる気出てきたで。 とにもかくにも俺は幸村が好きっちゅーことや。これからもその気持ちは変わらん」 「やっぱ結局はそうだよなー… まあ頑張れよ。とりあえず応援しとく」 「もっと全力で応援してぇな」 いつもの調子で侑士と会話が流れていき、どこかホッとしながらもこれから起こるであろう騒動を頭で描いては、あまり晴れやかな気分にはなれずにいた。 嵐の前の静けさなんて微塵もない。 120115 |