精市がテニス部を辞めて2日と20時間。

未だ帰ってくる様子はない。



「…何をしているんだ弦一郎」


俺が部室に入ると、そこには精市のロッカーの前で正座をしている部長代理の副部長がいた。



「自分が幸村にしたことを悔やみ、反省しているところだ」


「だからと言ってロッカーの前ではなくても良いんじゃないか?」

「いや、ロッカーの前だからこそ意味があるのだ」



そう力強く説明してきた弦一郎は若干暑苦しいし、言っていることもよくわからない。

精市が辞めてしまい、とうとう壊れたのかもしれないな…


「とにかく、他の部員たちが来る前に場所を変えてくれ。
でないと仁王辺りにからかわれお前が怒るのがオチだ」


「しかし、先日仁王がこの場で正座をし幸村への態度を悔やむ姿を見て、俺も己を見つめ直そうと思ったのだが…」


え、仁王?

仁王ってあの仁王雅治ですか?


俺は一瞬どころかしばらく耳を疑った。

いやいや、雅治くんはないって。


「仁王というのは、あの…仁王か?」


「ああ、確かに仁王だった」


「……アイツ」



ここでようやく俺は仁王の悪巧みに気づいた。



きっと仁王は弦一郎に『正座をして反省をしている』と言って同じことをさせたかったのだろう。

まったく、懲りないやつだ…



「仁王でなくても、赤也が笑う確率100%だ」


「うむ。ならば止めるとしよう」



ようやく立ち上がりロッカーの前から移動した弦一郎は自分のロッカーの扉を開けた。



「時に柳」



ロッカーを開けたまま動作を停止した彼が声をかけてきた。



「何だ、弦一郎」



不思議に思い、俺も作業を中断させ未だに停止し続けている弦一郎を見た。



「これが幸村の仕業である確率は一体何%だろうか」




少し掠れた声で確かにそう呟いた弦一郎に近づく。

そして彼が見つめる先…ロッカーの奥を見た。




「ふ…100%だ」





そこには、赤いスプレーで大きく『ごめん』と書かれていた。







大変良くできました。




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