「今日で俺たち三年も、引退だ」
幸村がみんなの前でいつもより声を張り上げて言った。
そう、俺たちは今日で正式にこのテニス部を引退する。
「たくさん苦労をかけた。今まで支えてくれてありがとう。
三連覇はできなかったけど、赤也が頑張ってくれるからみんな付いていくように!」
「ちょっと部長! 何で俺だけ頑張るみたいな空気にしてんすか!」
「だってお前、次部長じゃん?」
「じゃん?…とか部長のキャラじゃないでしょーが!」
「部長ではないか」
「何でそこで真田副部長!?」
幸村も最後の最後で赤也と戯れてとても楽しそうな顔をしている。
「本当に、これで最後なんだな」
「あぁ…長いようで短かった」
俺の横にいた柳が染々と呟く。
これはこれで、なかなか寂しいものだ。
「ねぇ真田、お前からも何か言いなよ」
「…唐突に振るでない」
「大丈夫だって、副部長なんだから! たまにはそれらしいことしなよ」
気持ち悪いくらいニコニコした幸村が怖くなったので、仕方なく言うことにした。
「我々、立海テニス部は常勝を胸にこれまで日々精進してきた。 そして今、共に励んできた部員たちと別れ「固っ苦しいからもういいや」
「……ならば何故俺に挨拶させたのだ」
「精市なりの、時間稼ぎなんじゃないか?」
「時間稼ぎ?」
「あぁ。一番、引退したくないのは精市なんだろう」
そう言った柳の心中を、俺は知っている。
柳はずっと幸村に想いを寄せていた。
俺はそんな柳に。
そして幸村は、俺に。
つい先日、幸村から告白を受け、俺はようやく三年にも渡る三角関係とやらに気づいた。
お互い、初めて出会った時に一目惚れをし、今に至るようだ。
幸村の片想いは一番長いだろうが…。
幸村が倒れた時、気持ちを考慮して柳に見舞いに行けと言ったが、俺も来いとせがんだ意味もようやく分かった。
俺を副部長にしたのも、支えてほしかったのだろう。
「弦一郎が精市のことを考えている確率76%」
「…ふ、お前のデータにはいつも驚かされるな」
「精市はお前が好きだ。付き合ってやってはくれないか」
「俺は好きではない者と付き合うなど、できん」
「しかしそれでは俺が困る」
「何故困るのだ?」
「好きな奴には、幸せになってほしい」
その気持ちは、三人とも同じなのだ。
だからいつまで経っても誰一人幸せにはならない。
「俺も、柳には幸せになってほしいと思うぞ」
「それでは、俺たちの関係はいつまでも変わりはしないな」
では、この綺麗なまでの三角関係が崩れてしまったなら、俺たちはどうなる?
またお互いを仲間と、親友と呼び合えるのだろうか。
何も知らなかったあの頃に戻って、この関係をなかったことにはできないのだろうが。
ここに来て俺の心から沸き上がったのは、寂しさとほんの少しの後悔だった。
111009
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