多くは語らない(赤也誕 幸→赤)






明日は、俺の誕生日。


でも今はテスト期間で、部活がなく部員にお祝いしてもらえるのはテストが終わった当日ということになっている。
それまで、テニス部の部員は死ぬも狂いで勉強するのが定期試験のお決まりだ。

何故かって、そんなの『試験でも俺たちは…一番じゃなきゃダメなんだ!』とか言っている部長のせいに決まってるだろ。

テニス部の部員がいるクラスは、誰か一人でもそのクラスで順位が一位じゃなきゃ、副部長から鉄拳制裁をプレゼントされる。

だからみんな、それが恐ろしくて他人を祝う余裕すらないらしい。

(俺は頑張ってもそんなに結果は変わらないから、もう諦めている)

正直なところ、みんなには明日、祝ってもらいたい。

けど、そんなワガママを押し付けるわけにもいかなくて、結局テストが終わるまでお祝いはおあずけ。




「…はぁー」

「勉強してない奴が溜め息つくな」

「だって…」


俺のとなりには先生より怖い部長様がいる。


本当は柳先輩に勉強を教えてもらう予定だったけど、急に用事が入ったらしく急遽、部長が代わりに教えてくれることになった。


どこ探したって、あの面倒くさがりな部長に一対一で勉強教えてもらえる馬鹿って俺以外にいねーよな。
やっば、俺ってば超絶レアじゃん!


「別にいいだろ、誕生日くらい。これからは嫌になるくらい迎えるんだから」

「嫌になるまでは、みんなからお祝いされて大騒ぎしたいッス」

「あー…赤也は三十路越えても誕生日で大騒ぎしてそうだよね」


呆れたように俺を見てから、ノートに視線を写してまた呆れたように俺を見た。


「お前さあ…俺がさっき教えた公式、あれただの落書きだとでも思ったわけ?」

「え?いや、だってこれ当てはめるだけじゃないッスか」

「そうだね。いくら馬鹿也でもさすがにそれくらい、わかるよね」

「名前違うッスよ…」

「お前もその問題の答え違うからね」

「うげっ…」

「ほら、また計算間違え。算数からやり直せば?」


部長の口から放たれる毒舌がグサグサと心に刺さる。
部活の時より、こうやって普通に過ごしている時の方が怖い。

俺いちおう明日誕生日なんデスガ。


「ほら、うじうじしてないで、さっさと終わらせなよ」

「え゛ー」


項垂れている俺の頭を鬼のような(最早鬼だよこの人…)部長がパスン、と教科書で叩いた。


明日もこんな感じで、付きっきりで勉強をさせられるのだろうか。
そう思ったら集中できなくなって、またシャーペンが止まる。
ダメだ、ちゃんと集中してやんなきゃ部長にまた怒られる。


「………」

「………なんスか」

「お前、今頑張っとかないと明日もやらせるから」

「え?…えぇ!?それって、今頑張ったら明日は勉強しなくても良いってことッスか!?」

「そう。だから頑張りなって」

「俺めちゃくちゃ頑張ります!よっしゃあ!!」


それからは、部長に何度かどつかれながらも正解するまで全問を解いた。








「ふぅー…やっと終わった…」

「赤也はやれば出来るのに授業ちゃんと聞いてなさすぎ。
今度から先生の言うことやポイント、押さえとくんだよ?」

「が、頑張ります…」


机の上に散らかった教科書やノートを片付けながら、最後の説教をうける。
でもこれで、明日は勉強会免除なんだと思ったら、部長の説教もそれなりに堪えなかった。


「あ、あと」

「?」


荷物をまとめて立ち上がった部長が思い付いた様に止まり、ポケットから何かを取りだし、俺に向かって投げた。


「えっ…ちょっとコレ何スか?」

「見たまんまだけど」


掌にばっちり受け取った物を見ると、そこにはシルバーのリングが一つ。


「ちゃんととっておきなよ?意外と高いんだから」

「なんでそんな高価な物…」

「そりゃあ、好きな子にはかっこつけたいからね」



それだけ言い残して、部室から出ていった部長を追いかけることも出来ず、掌のリングをじっと見つめさっき言われた言葉を何度も反復する。

じわじわと顔が赤くなり、頬も熱くなる。



(…そんなのって、ちょっとずるくないっスか?)






ただただ煩く脈打つ心臓の音だけが、俺の頭に響いた。




121011



遅くなったけど、赤也誕生日おめでとうでした!



 

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