「何で、俺だったのかな」
「……わからん」
仁王が、ポツリと答えた。
この病気にかかってから何度も何度も、考えた。
俺じゃなきゃいけなかった理由を。
「ごめん、俺でもわかんないのに、仁王に聞いたって分からないよね」
ベッドの横にも椅子があるのに、敢えて隅の椅子に腰かけている仁王。
きっと俺からすぐに逃げられるようにだろう。
中1の終わりに、部活をサボってばかりだった仁王を追いかけ回して、縛り上げ、果てには髪を真っ黒に染めてやった。 それ以来、仁王は俺と会話はするが、ある程度距離を取られるようになったのだ。
あの時の恐怖が、今でも身体に染み付いているらしい。
今のこの状態で追いかけるなんて出来やしないのに、バカだなあ。
「テニスが、出来なくなるかもしれないって」
「…聞いた」
「そう…」
彼が病室に入ってきてから一度も顔を合わせずに話している俺たちは、端から見たらちょっと変だろうな。
ずっと窓の外を見ている仁王が、ゆっくりと視線を床に移した。 多分、なにかを考えてる。
もし俺が、退院出来ないまま大会が終わってしまったら、とかかな。 全員で優勝しよう、三連覇を成し遂げようって、約束が果たせなかったら…とか。
不安しか心の中にない俺はそんなことばかりを想像してしまう。
ダメだ。こんなことを考えていたら、現実になってしまいそう。
「幸村は、」
「うん」
「幸村は、正直怖い」
………コイツは一体何を言っているんだろう?
不安に押し潰されそうな人間を目の前に、何をしたいんだこのアホは。
「中1のあん時からずっと、幸村がおる部活が怖かった」
「…喧嘩売ってるの?」
「いや、あの…そうじゃなくてですね…」
俺のまじな感じの声色に急にどもる。
だから何? 俺が居なくて今はせいせいするってことが言いたい訳?
仁王の言わんとしていることにイライラする。
本当にコイツは何なんだ。
「…でも、おらんかったらそれはそれで…その、さっ…寂しかっ、た…ナリ」
「えっ…」
じゃあの!と鞄を勢いよく掴んで病室から走って出ていってしまった仁王を、追いかけられる訳もなく、咄嗟に伸びた右腕が空中で行き場を失い、また元の場所に戻った。
出ていってくれて、よかった。
泣き顔なんてあいつに見せられない。
シーツにポタリと、水滴が落ちる音がした。
…ていうか仁王、廊下は走っちゃ駄目だよ。
さっさと元気になって、またあの日みたいに追いかけ回してやらなくちゃ。
120807
お誕生日のやまめさんへ(^з^)-☆
弱気な幸村様とのことでしたが、最終的には通常運転な神の子になりました。 奴は書き手までも操る力を持っている末恐ろしい人です…好きだ。
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