惚れたら負けゲーム(ちとくら)







部活終わり、自分のロッカーの前に立ちガシャンと扉を開ける。

ちょっと頭を動かしただけでポタリと床に汗が落ちた。

最近サボりぎみだったので、さっきまで白石にしごかれていた。


隣の隣でまたガシャンという音がしたので、白石も着替えるためにロッカーを開けたらしい。


上を脱ごうとして脇の下までユニフォームをたくしあげたら、急に後ろから俺の腹辺りにまで腕が回された。

ビックリして振り向こうとしたら、白石がえらく小さな声でこっち向かんで…と言ってきたのでやむを得なく前を向いたままの状態になる。

素肌から白石の心臓の音や、温もりがダイレクトに伝わってくる。


「千歳」

「…どげんしたとや、白石」

「男に、俺にこないなことされても嫌がったり、せえへんのやな」

「…嫌がるっち言うか、たいぎゃ驚いたばい」

「俺な、最近おかしいねん。千歳を見とると、胸の奥がきゅうって締め付けられるみたいに痛くなるんや」


それは、…と言う前に一度落ち着くよう自分に言い聞かせる。

もしかしたら本当に何かの病気かもしれない。
俺の言葉だけで言い切ってしまって良いのだろうか。

でも、白石の小さく、呟くように紡がれる気持ちはいかにもソレだろうとしか、思いようがない。


ドクンドクンと波打つ鼓動が嫌なくらい聞こえてくる。



「…ちと、せ?」

「俺は白石のその胸の痛みが治らん方が、嬉しかねぇ」

「え…?」


くるっと向きを反転して、俺を見上げる白石の唇を貪る。

突然のことで何がなんだかわかってない彼の口内に舌を入れるのは簡単なことだった。


時折、苦しそうに漏らす声はゾクリと背筋に電流が走ったように俺を刺激する。


「ふ、ぅあ…」


やっと口を離したら名残惜しそうに俺を見つめてくる。

それ、犯則ばい。


コイツは頭から足の先まできっと俺を狂わせる、甘い甘い何かで出来ているんだ。


「………俺の負けや」

「負け?」

「こりゃあ誰でも惚れてまうわ…っ」

「惚れて……あ、」



悔しそうに顔を歪める白石が一体何を言っているのかよく分からなかったが、惚れてというワードでハッとあの日のことを思い出した。











『なあ千歳、俺とゲームしようや』

『ゲーム?今から?』

『そないに難しいゲームやあらへんから大丈夫やで』


何が大丈夫なのかは全くわからなかったけど、白石からこんなことを言うのは珍しかったからちょっと付き合ってやろうと思った。


部室の少し古びたパイプ椅子に腰掛け、お互い向かい合う。
そういえば白石と二人きりで話すことすら珍しいかもしれない。ちょっとだけ緊張。



『まあ簡単に言うと"惚れたら負け"っちゅーゲームや』

『"惚れたら負け"…?』

『せや。男女どちらからも惚れられるようなことを互いにし合って、惚れさせたモンが勝ち…』

『それって、自己申告せんといかんと?』

『んー…、そういうことやな』


…コイツが作ったな。このゲーム。
しかもかなり適当に。

俺も拒む理由もないし、仕方なしだがゲームに参加することにした。




『…で、何んばすっとよ?』

『普通に生活すればええんや』

『はぁ…』









あの日から3日後の今日。

そんなゲームのことはすっかり忘れていた俺は、これがゲームだと知らずに白石にキスをしてしまった…しかも深いやつ。



「キスはアカンやろ、キスはっ」


顔を真っ赤にして、俺のユニフォームをぎゅっと握ってくる白石に、きゅんとする。


このゲーム、俺の負けなんじゃないだろうか。



惚れたら負けゲームをしようって言った白石に、あれは口実だったのかなんてのも聞けないから、とりあえずもう一回俺は白石にキスをした。





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