捨てられないモノ(跡部と滝)






「萩之介…どうやら俺は、庶民になっちまったらしい」



みなさん…どうやら跡部はおかしくなった様です。






跡部が部日誌を書き終えた頃にはみんなはもう帰った後。
そしてその時たまたま他の用事で残っていた俺を見つけた彼がファミレスに寄って帰りたいから付き合え……なんて俺を誘ってきた。

跡部が俺を、しかもファミレスに誘うなんて珍しいの極みも良いもんだよと思いつつ、内心ちょっと嬉しかったので付き合うことにした。

したのはいいけど、店内に入り互いに食べたいものを頼んで一息吐いた開口一番に、冒頭のソレを言われたのだ。


おったまげたとかそんなもんじゃない。
この付近に知り合いがいたなら、俺は直ぐ様ソイツに跡部を押し付けたい衝動に駆られた。

だって、こんな奇妙なことを言う跡部は、キモさが最高潮の時の忍足並みに面倒だから。



「きょ、今日はとっても天気が良いね」

「萩之介、聞こえていなかった様だからもう一度言う。…俺はどうやら、庶民になっちまったらしい」

「あー、わかった!醤油だね。醤油が足りないんだね」

「?まだ食事は運ばれてないぞ…?
なんだ、また聞こえなかったのか…?」



聞 こ え て る よ ! ! !


それはもう、清々しいほどに!

お願いだからその話はやめようよっていう俺の必死さを感じ取ってくれ。
話を変えようかなって、空気を読んでくれ。

跡部にそんなこと望む俺がバカだっていうのは十分分かってる。


だけど、本当に、ほんっっとうに面倒だから話を変えてくれ!



「何て言うかよ…俺様も、アイツらに出会ってから随分と丸くなったもんだぜ」

「へ、へぇ…そうなんだ…」


全く俺の気持ちなんて届いていないので、また話を進める跡部に泣きそうになりながらも相槌を打つ。



「氷帝に入学してからすぐ、宍戸からよく試合申し込まれてたの覚えてるか?」

「そういえば、そんな時もあったね」

「でな…その時不覚にも怪我をした俺に宍戸が絆創膏何枚かくれてよ。普通の、何処にでも売ってそうな絆創膏なんだが、どうしても残ったのを使えなくて今でも部屋に取ってあるんだ」

「うん、それで?」

「それだけだ」

「え!?」

「不満なのか…?あぁ、後は日吉にもらったそろばんなんてロクに使えもしねぇのに年中部屋に飾ってるもんだからよ、メイドに苦笑いされちまったぜ」

「で?それと、どう跡部が庶民になったのが繋がってるの?」

「"もったいない"って、思うようになったんだよ。俺も」

「…えぇ!!?」

「驚くのも無理はねぇ。俺自身もかなり驚いたからな」

「いやいや、跡部がもったいないって精神=庶民って思ってたことに驚きだよ。今の時代はエコの為にもったいない精神に金持ちも庶民も関係ないからね?とりあえず庶民の皆様に謝りなよ」

「え、なんかすみませんでした」



素直に謝ってくれたのは良かったけど、なんかなー…さすが跡部って感じだよね。俺もうお手上げだよ。帰りたいよ。何で樺地はいないんだよ。



「とにかく、俺には捨てられないモンが増えちまったようだぜ」

「ソウダネ…」



窓の外の人々が行き交う街並みを眺めながらそう言った跡部。

その頭に通りかかったウェイトレスさんが転んで放り投げたミートスパゲッティが振りかかったのは、この際俺の捨てられない思い出として取っておこうっと。





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