つんつん
「…謙也?」
白石のジャージを引っ張れば直ぐに俺だって分かってくれる。 そんな些細なことでも、嬉しく思えて仕方がない。
「何でもない」
「何や〜構ってちゃんにでもなったんか?」
「せめて構ってくんやろ」
「構ってほしいのには変わりないんやな」
綺麗な顔で笑う白石にドキッと、心臓がまた跳ねる。
好きになっても叶わない恋に絶望的になる人がいるけど、俺は決してそんなことはなくて…
寧ろ、白石を好きでいられることが幸せだった。
「白石は金ちゃんで忙しいし、俺は千歳に構ってもらうわ」
「それは親友として妬けるわぁ」
「はは、なんやそれ……ま、たまには俺とも遊んでやっちゅー話や」
「りょーかい」
じゃ!と手を振ってコートの方へ向かう。
ちょっとふざけながら、素直に気持ちが伝えられるの親友ってポジションならでわの特権な気もする。
だから片想いだからって、特別悲しい訳でもない。 白石が好きな女子よりずっと近くに、ずっと一緒にいれるんだから、本当に俺は幸福者だ。
「……っと、捕まえたばい」
「…千歳」
「走りながら泣いとっと、足元掬われるとよ」
「う……っ、ちと、せぇ」
何でも分かってしまう千歳。 俺が白石を好きになった時も、一番にそれに気づいた。
だから一番、俺の気持ちをわかってくれるのも、千歳。
俺より背の高い千歳の背中にしがみついて、みんなから隠れるように泣きじゃくる俺の手をぎゅっと握ってくれる。
千歳の手は大きくて、温かくて、安心して、涙が止まらなくなるから嫌いだ。
「また自分に言い聞かせて、そげなこつしとっても謙也が苦しいだけっちゃ」
「…知っとるわ。せやけど、そうでもしとかな、白石の前で泣いてまう」
「……白石なんかやめて、俺にすればよかと」
「…………」
これが彼の優しさなんだって、分かってる。
千歳には悪いけど何度も千歳が白石だったら、なんて思った。
泣いてる俺を捕まえてくれるのも、手を握ってくれるのも、俺の気持ちを一番分かってくれるのも、全部が白石だったら良いのにって。
「俺は…千歳を好きにはなれん」
「…うん。わかっとうよ」
「なのにっ、いっつも甘えて、ホンマ俺最低や…」
「最低なんて、そげなこつなかよ。最低なんは、こんな一途な謙也をほっとく白石たい」
くるっと俺の方に振り向いたら千歳に抱き締められる。
ほら、拒否しない。
また俺も千歳もお互いから離れられなくなる。
「好いとう」
「…俺は千歳が、優しい千歳が嫌いや。 優しくて、アホみたいに俺のこと気にかけてくれる千歳が、嫌いやぁ…っ」
ダメだ、涙が止まらない。
…なぁ、俺はどうしたらいい?
抜け出せない。
白石への気持ちからも、千歳の優しさからも。
(お願いだから、俺を愛して)
120729
最後は謙也と千歳の気持ちです。
謙也と千歳が切ない話が書きたかったんです。
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