彼が黒かった頃(柳と仁王)






「お前はいつからその色なんだ?」

薄暗い部室の中で珍しく仁王と二人きりになった。


レギュラーの中で一番データの少ない仁王を調べるために、まずは過去のことから知ろうと思い何となくこの質問を投げかけてみる。

「……中学入ってからかのう」


少し考えてからそう答えた仁王はニヤリと笑って、俺のデータでも取るつもりなんじゃろ?…勘の良い奴め。これだから俺以外のキレる人間は嫌なんだ。


「ま、いつまでも隠しとったってお前がイラつくだけだろうからな。そろそろ教えちゃるか」


よいしょっとパイプ椅子に腰かけた仁王が目で俺もそこに座れと言ったので、仕方なく側にあったソファに腰を下ろす。



「生まれは、まあ南の方じゃろうな。ちょくちょく引っ越しとったけん、ぶっちゃけ自分の出身地は知らん」

「ほう…して、お前は親に聞いたことはなかったのか?」

「ああ、もちろん聞いたことはあったぜよ。けど…教えてくれんかった」

「何故だ」

「さあな。日常生活に支障はないから俺もそれ以来聞いとらんし」

仁王の出身地は分からなかったが、仁王は自分のことにあまり興味が無いようだ。

コイツが普通の人間よりちょっと浮いて見えるのはきっとそのせいだろう。


「でもどこに行っても、テニスだけはしとった。それだけは確かじゃ」


一見分かりにくいが、テニスにかける情熱は誰よりも凄いのも、きっとそのせいなのだろう。


「小6の春、また引っ越しが決まってな」

「そこが神奈川…だったのか」

「ああ…じゃけん、どこの学校に通おうか悩んでのう。とりあえず、テニスが出来るとこっていうのを前提に調べるためにたまたまテニス雑誌見とったら幸村がインタビュー受けとるページを見つけてな…」


当時のことを思い出しながら、懐かしそうに笑う仁王。

俺が今まで見てきたコイツの表情の中で、今のが一番素直に感情を出している顔だった。


「幸村を見た瞬間、俺は"あぁ、コイツに付いていこう"って思ってな。んで、そんな幸村が行くのが立海だったって訳じゃ」


幸村となら、全国に行って頂点を目指せる…


不思議と、俺も初めて精市を見たとき、仁王と近いものを感じたことを思い出した。



『お前たちとなら俺は無敵だ』



精市。

お前は昔そう言ったが、俺たちだってそうなんだ。




「幸村がきっと、俺をここまで導いてくれたんじゃな」


それだけ言い残して仁王が部室を去っていった後、タイミングよく精市が入ってきた。



「あれ?柳もいたんだね」

「ああ。少しデータ収集をな」

「仁王はガード固いもんね。…それで、何のデータが取れたんだい?」

「ふ……仁王の髪が、黒かった時の話だ」



120722




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