「…っ」
「……ええやんか、お前はまだ来年があるやん」
「でも」
「でもも何も、また頑張れるチャンスがあるんやから」
力になれなくて、情けなくて泣き出してしまった俺を優しく宥めてくれる部長の手の温もりが、頭から伝わってくる。
俺より悔しいだろうに、何でこの人は俺よりずっと大人なんだろう。
試合に負けた時落ち込むみんなを、いつだって一番に励ましてくれてたのは部長だった。
そんで、勝った時は誰よりも褒めてくれた。
「お、れ…」
「ん?」
「おれ、部長みたいに…ヒック、なれる自信なんかない…っ」
「財前…」
今までの部長の姿が鮮明に蘇ってきてから襲ってきたのは、俺の全身を包み込むような不安。
次は俺の番。
そう思うだけで言い知れない不安や、恐怖ばかりが沸き上がって、余計に喉の辺りがキュウッと熱くなり、涙が溢れた。
「無理、やぁ…部長みたいに、できひん」
「………俺かてお前とおんなじや。初めは不安しか、なかった」
「ズッ…ホンマですか?」
「ホンマや。俺も財前みたいに前の部長の影ばっか追いかけようとして、苦しくて、息も詰まりそうな時期、あったんやで」
懐かしそうに笑う部長は俺が知ってる、変な部長の面影なんて全くなくて、本当に一つ上なだけなのかと疑いたくなる様な大人っぽさがあった。
「せやからな、俺程に苦しまん様にアドバイス」
「アドバイス?」
「前の部長を越えようなんて、思わんでええねん。自分は自分らしく、四天宝寺中のテニス部を創りあげていくんや」
「…はい」
部長の言葉がスッと心に入っていくのがわかった。だから、俺も鼻が詰まった声でもこんな素直に返事ができたんだと思う。
その後は、今まで流れてた涙が不思議なくらい自然に止まって、気づいたら俺は部長と笑い合っていた。
多分越えようと思っても越えられん、それがアンタなんやって言うんは照れ臭かったから、代わりにドヤドヤしてる彼をどついておいた。
120712
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