陽射しが日に日に暑くなっていく。
そんな微妙な変化が苦手な俺は大抵、この時期になるとよく苛々している。 元々のんびりとしている性格ではないし、どちらかと言えば何事も素早いことが好ましいと思っているような俺だ。 こんなちまちまと暑くなるより、どうせ暑くなるんだからとっとと暑くなれ。そんなことばかりを思いつつ、頬にじんわりと浮き出た汗をベンチに置いてあったタオルで拭く。
暑さに弱いから余計にそう思うのかもしれないが、こんなにもこの時期を嫌い始めたのは案外と早く、去年からだ。
思い出したくもない、去年の今ごろ。
『あまり好きではない』から『嫌い』になってしまうほど、俺へのダメージ…いや、ストレスは大きかったのだ。
「よう、日吉。調子はどうだ?」
「……………」
────現れやがった。
そう、全ての元凶はコイツ。跡部クソ部長。
この男のせいで、俺は毎日のように苛々するハメになったのだ。
「どうやら今年もこの中途半端な暑さにやられてる様じゃねえか」
「……………」
とにかく無視。
無視をするのがストレスから回避できる最善の策だ。
今の俺に跡部さんなんか見えないし、跡部さんの声なんか聞こえないし、ていうか跡部さんって誰?な勢いで、俺は全力で跡部さんという存在を頭の中から抹消しようてしている。
「ほほーう…無視か。今年は無視して俺様から逃げようって魂胆か、あーん?」
「……………」
自覚してるなら、頼むからどっかに行ってくれないか。
俺は去年、入部して早々から跡部さんに気に入られ、1週間という驚異的な早さで付き合うことになった。
まあ俺もぶっちゃけ跡部さんに惚れて入部したっていう節があったので、まあいいか。なんてノリで彼からの告白にOKした。
…が、それがいけなかった。
付き合い始めてからというもの、跡部さんが俺にくっつくくっつく……それは、気持ち悪い人代表の忍足さんでさえ引くほどに。
そしてそのまま迎えた夏。 俺はあっつい夏も跡部さんからの嫌がらせ(としか思えない)と言う名のスキンシップに、練習があるたび爆発しそうな思いだった。 寧ろそのまま爆発してればよかったかも…
「ま、俺はお前にどんだけ拒まれたって諦めねぇけどな」
「…っ!??」
グッと距離が近づいたかと思えばすぐ目の前に跡部さんの顔。手は俺の腰に回っている。 ここ、コート周りなんですけど。
「あっつい…」
「暑くても俺は構わねえ」
「それはアンタだけだ」
「嫌なら、突き飛ばせばいいだろ」
突き飛ばせないことを知っているくせに、この人はズルい。
こんな道のど真ん中で抱き締められて恥ずかしくないワケ、ないのに、俺は跡部さんを突き飛ばしてしまうなんて、結局できない。
だからきっと、俺は跡部さんのせいで人一倍暑い夏を過ごすことになるんだろう。
「日吉、」
「ん…」
名前を呼ばれて彼の顔を見たら、急にキスされた。
あーあ、この距離で見たらこの人の顔がどれだけ整っているのかが嫌と言うほど分かってしまう。
でも、誰が見てもかっこいいと思ってしまうこの人に、こんなにも想われている俺は誰よりも幸せに違いない。
「跡部さん」
「なんだ…っ」
今度は俺が名前を呼んで、まだ熱を持っている唇を彼に押し付けた。
120709
|