「俺とお前は、違うんだ」
「…知ってますよ」
「いや、分かっていないからこんな怪我をするんだろう」
赤也の膝の高さまで腰を下ろし怪我の状態を見る。思ったより酷くはなさそうで安心した。
はぁ…と溜め息を吐きながら消毒液を探す。 馬鹿なくせに、練習中に俺の真似をしてデータテニスをするからこんなことになるんだ。
不完全なデータでボールを追いかけることほど、危険なものはないと言うのに。
「先輩」
「何だ」
「…怒ってます?」
「あぁ、少しな」
「少し…?」
「きっと俺より精市や弦一郎の方が怒っているはずだ。今俺が怒るのも、後から二人に怒られるのも同じだろう」
見上げて赤也の顔を覗き込めば、安堵したような、恐怖に駆り立てられているような、よくわからない顔をしていた。コイツは本当に表情がころころと変わる。俺からしてみれば忙しそうで仕方がない。
「怒られるのが嫌なら、もう俺の真似してデータテニスなどしないことだな。 例え間接的であっても、俺のせいでお前が怪我をするなんて流石にショックだからな」
こんな、本来なら意味もない怪我を負ったのだって普段から赤也への注意が足りなかった俺の責任でもある。
手当てをし始めてから赤也は、一向に喋ろうとしなかった。
わかっているんだ。赤也だって、自分が悪いってことぐらい。
でも今日という今日は、俺や周りのみんながどれだけお前のことを心配しているのかを思い知ってもらいたい。
だから普段なら絶対に言わないようなことを言って、本人に反省する機会を設けてやった。
…上手くいった確率、94%。
「…………柳先輩」
やっと口を開いた赤也が俺の名前を呼ぶ。
次に出てくるであろう言葉がだいたい推測出来るので、わざとゆっくり短い返事をする。
「その……えっと」
「はっきり言わなければ、わからないぞ」
「ごめん…」
「ごめんなさい、だろ?」
「ごめん、なさいっ」
「もう二度と、あんな真似はしないでくれ」
「はい…」
よくよく考えてから、きっと気づけたのだろう。
俺たちが赤也を心配する気持ちも、大切に思うからこそ怒ることも。 みんな、お前が大好きなんだ。可愛くて仕方ないんだ。
「…お前にも、いつか俺たちの気持ちが嫌と言うほどわかる日が来るんだろうな」
「…それはちょっと、嫌ッス」
「何故だ?」
「だって俺、まだまだ先輩たちの後輩でいたいから」
そう言ってニカッと笑った赤也に、俺は頭を軽く小突いてからフッと笑みがこぼれた。
約束しよう。
どれだけ時が経っても、お前はずっと俺たちにとって可愛い後輩であることに変わりはない、と。
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