『あの、開かないんですけど…』(跡仁)






「何で客人である俺様が閉じ込められなきゃなんねえんだよアーン?」

「プリッ」

「頼むから日本語を喋ってくれ」



幸村に用事があり遥々、立海に訪れたらこの謎の言葉を操る仁王に出会った。

顔は前から知っていたが、直接話したことはなかったのでこんな変なしゃべり方をする奴だとは思ってもいなかった。何なんだ立海って。

でもまあ、丁度良いから幸村のところまで案内してもらおうと、ついていったらテニス部の部室に連れてこられた。

仁王曰く、ここにいれば必ず会えるらしい。
そんなことは俺様にだってわかるぞ。なめてんのか…こいつ。

来てしまったものは仕方ないので、大人しくここで幸村を待つことにした。ボロいパイプ椅子に腰かけた俺を見た仁王が『じゃあ俺は校内を探してくるぜよ』なんて言いながら背を向けて扉の方へ歩いていった。

(ふん、意外と良い奴じゃねえか…)

そんなことを思った矢先、ガチャガチャガチャガチャ………音のする方を見れば、仁王が一生懸命取手をガチャガチャ言わせている。
何をしているんだ。


『やばいナリ』

『あ?何がだよ』

『壊れて、開かん』

『…は?ふざけてんのか』


先ほどと違い、血の気の引いた仁王の顔にこれは本当にやばそうだと感じた。

そうして冒頭に戻るのだった。



「仕方ねえ。他所の学校のモンだし、不本意だが…………壊すか」

「まま待ちんしゃい!こないだブンちゃんとふざけて壊したばっかなんじゃ!
また壊したりなんかしたら幸村に…だから壊すのだけは!」

「あー、ったく…わかったから放せ」

「す、すまん…」


扉を破壊しようとした俺の腕を必死に掴んで阻止した仁王は今にも泣きそうだった。…可愛いとこもあるじゃねえの。
今はショボンとしているコイツの姿にも、少し胸が高鳴る。



…オイ、待て。

高鳴るって何だ、高鳴るって。
高鳴ってどうなるんだよ。相手は男だぞ。


「あ、何か飲むか?幸村の好きな紅茶っぽいのとかあるぜよ」

「いや遠慮しとく…(紅茶っぽいって怪しすぎるだろ)」

「そ、そうか…」


ほらまた、またショボンって。だからそれ可愛いから止めてくれないか。
困るから。俺様、反応に困るから!


「…そういや、立海の奴等はみんな異名があるよな。幸村は神の子、真田は皇帝、柳は達人。で、お前は?」

「俺は……」


俯いてなかなか言い出さない。

そんなに変な異名なの…?


「まあ別に、無理して言わなくても…」
「詐欺師…じゃ」

いいぞ、と言い終わる前に答えた。確かに、詐欺師と。
俺様からしてみたら、それが詐欺っぽいと思うんだが…

「詐欺師ってことは対戦相手を騙すってことか?」

「…おん、ダブルスの相方と入れ替わったり、他の選手になってプレーしたり」

恐る恐る説明してくれたが、もしかして詐欺師って呼ばれるのが嫌なのか?
そう思えて仕方ないんだが…


「その詐欺師ってのは、お前にとって嫌な異名なのか」

「いや…みんなから詐欺師言われるんは、別に気にならん。
けど、不思議とお前さんからは言われとうなくて」


目を逸らし、頬を若干赤らめながらそう言った仁王に俺は今度こそ、確実に心を持っていかれた。

(可愛い過ぎるだろう、この男…)


そんな思いが湧いてきたらもうその瞬間から、抑えきれずに仁王を引っ張って膝の上に乗せる。

突然のことで、自分に何が起こったか分かっていないコイツと顔を近づける。


「な、なっ……!」

「おっと、俺様から離れようなんて思わねえ方がいいぜ?」

「近い…し、恥ずかしっ」

「てめぇいちいち可愛い反応すんな。俺の心臓が持たねえ」


今度は羞恥で泣きそうな顔をしている仁王にふっと笑いかけて、目を閉じる。

初めて会った相手…しかも男にどうしてキスなんかしようとしているんだろうか。

でもそんなこと、どうでも良くて今はとにかく仁王に触れたいと思った。

きっと、コイツも俺と同じ気持ちだろう。


至近距離に吐息を感じる。

もう少し…で。

ドクドクと鼓動を打つ心臓の音がやけにうるさい。


ドクドク、ドクドク、ドクドッカーーン!!!


「…!?」

「な、何じゃ!?」


あとちょっとでキス…なんて時にいきなりの爆音&爆風。思わず顔を離して辺りを見渡せば床に開かない扉の無惨な姿があった。

扉がなくなった向こうからはかつてない程、爽やかに笑う幸村がいた。そんな笑顔に似合わない、握りしめられた拳と共に…


「ねえ跡部…誰が俺の、俺の仁王に手を出して良いなんか言ったのかな?」


この折れ曲がった扉の様になりたくなかったら、仁王から離れろブッ殺すぞ────そんな言葉もついでに俺の耳に届いた気がした。


とりあえず膝に乗せていた仁王を降ろす。

それを見た幸村が満足そうに拳を収めてくれたので、一先ず安心した。

不安げにこちらを見つめる仁王に大丈夫だよ、と口パクで伝える。



俺様は、幸村ごときで諦めるような男じゃねえからな!






120430



長くなってごめんなさい。途中からめっちゃヒートアップしてしまいましたてへぺろ☆

てな訳で、リア友・はるからいただいたリクエスト『仁王と跡部が絡んでるやつ』。笑

結局BLになっちゃったよ。すまんね。でも個人的に超絶楽しかった。(真顔)
こんなとこまで読んでくれてたら嬉しいです。

素敵なリクエストありがとうございました!





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