「跡部さん」
「んだよ日吉」
さっきからずっとこの繰り返し。 俺がいくら名前を呼んでも、部誌から目を話さない。
アンタ、一応俺の恋人だろうが。
「今日一緒に帰りませんか」
「もうちょっと待て。待てないなら先に帰ってろ。」
「……わかりました」
そっちがそんな態度なら、俺は跡部さんの言う通り先に帰ってやる。
後で泣いたって許してやらないからな。
俺は自分のラケットバックを肩にかけ、帰る支度を早々に進めた。 確か窓の鍵は全部閉めたし、電気も跡部さんが使ってる机のスタンドだけだ。
じゃあもう俺は帰る。
「では、失礼します」
跡部さんの背中に向かって一声かけてから扉に手をかけた。
「……おい」
「はい、何でしょう」
すぐに返事をした。
平然と帰ろうとはしていたが、跡部さんが引き止めるかな、と少しでも期待していたからだ。
開けかけたまま、振り返るとこちらに身体を向けていた。
「ここの近くに、有名な和菓子屋ができたらしい」
「はい、知ってます」
「……帰りに寄るつもりだったが先に帰るなら、奢れないな」
「跡部さん、俺を餌付けしたいんですか?」
「…………」
沈黙が続く。
図星か。
全く、この人は育ちが良いから餌付けなんて、そんな方法ぐらいしか思い付かなかったのだろう。
「あ、当たらずとも遠からず…」
少し慌てた顔は氷帝の王様とは思えないくらいだ。
「くくく…っ」
「な、何が可笑しい!」
「可笑しいんじゃないですよ」
開けかけた扉を閉めて、跡部さんの元へ近づき赤くなった顔に自分の顔を寄せる。
「可愛いんです」
「なっ…!」
その俺の言葉に、更に顔を赤くした可愛い恋人が反論してくる前にその唇を塞いでやった。
110918
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