謙也が来る。
そんなことを知ったのは2日前のこと。
もちろん、俺の家に泊まっていくのだ。
2日前、いつものように謙也と電話している最中、急に言うもんだからびっくりして携帯を落とした。
「はぁ…」
「おい忍足…テメェ俺と一緒に帰るのが不満か」
「いや、そういう訳やのうてな…」
「じゃあなんだ、俺といると疲れるのか」
「滅相もございません!!」
溜め息なんかついたせいで、すっかり虫の居所が悪くなった跡部。 そんな怖い顔せんといてぇな。きれいな顔か台無しや…!
口が避けても今のこの状況じゃ言えないけど。
必死に誤解を解こうとするが、俺は謙也のことで気が気じゃない。
今日は金曜日で、つまり跡部がうちに泊まりにくる日だ。
だからこうして一緒に下校している。
だけど問題は、謙也も今日泊まりにくることだ。
今まで散々跡部のことをノロケてきたので、謙也は彼がどういう人間なのか気になっている様だったし、第一、俺と謙也の好みは昔から似ている。
小学生の頃、帰り道にある花屋でバイトしていた大学生のお姉さんに別々のタイミングで告白していたこともあるし、ある時は同じクラスの山田さん、またある時は近所の女の子…とまぁ、言い出したらキリがない程、俺と謙也はことごとく好きな人が被ってきたのだ。
もうここまできたら、顔や体系などの問題じゃない。 根本的に好きなタイプが一緒なんだと気づいたのは小6の秋ごろだった気がする。
だから今回もわかる。
謙也は跡部に惚れる、と。
もちろん、そんなことになってもらっては困る。非情に困る。
跡部にちょっかい出すに決まっている。
何より…
(跡部と夜にあんなことやこんなことが出来ひんやん…!!!)
最終手段として、今日泊まるのは無理だと伝えて彼の家まで送る…という策は、さっきの溜め息のお陰で消えた。
ただでさえ今、機嫌が悪くなっているのにこのタイミングでやっぱり無理だなんて言ってみろ…確実に殺られる。
こうなってしまっては、しょうがない。
あまり宜しくない空気のまま歩き続け、気付けはもうすぐ俺の家に着く距離だ。
チラッと横にいる彼の顔色を伺えば、見るんじゃなかった…と後悔したくなるほど怖い顔をしていた。
しかしもう時間がない。
腹を括ろう…!
「あ、あんなぁ跡部」
「何だ」
「実は今日な、大阪から従兄弟が泊まりに来るんやけど」
「あ゛ーん?帰れってか?」
「(怖い!怖い!)いや、その…跡部さえ良ければ、泊まりに来てもええよ…?」
「行く」
「は……い」
返答の早さに少し嬉しさを感じながらも一向に機嫌が良くならないお姫様の手を握って、自宅であるマンションのエレベーターに乗った。
120328
続く。
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