廊下に出てみたは良いがとてつもなく寒い。 俺の心とどっこいどっこいだ。
いや、こっちはもう氷河期を迎えてる。
そう思ってしまえば寒さなんてどうでも良くなった。
とりあえずコンポタを買いに行こう。
方針状態のまま自販機へたどり着いたら、そこには自販機が似合わない、プラス今一番俺が会いたくない人物がいた。
えー…なんかあの人探してる風なんだけど。
しかもこっち気づいたんだけど。
タイミング悪すぎるんだけど。
「よぉ、日吉じゃねぇか」
「あ…跡部さん……」
「んだ、その顔。俺がこの小銭を入れてボタンを押したら勝手に飲み物が出てくる機械を使っちゃいけねぇのかアーン?」
「え、いやそれ自動販売機って言うんですよ。因みにレシートは出てきません」
「なっ…何で俺が探してるって知ってんだ!」
「御曹司の考えることなんて容易いですから……ふふっ」
「テメェ、何笑ってやがんだ」
「だって跡部さん…くっ、自動販売機のこと長々と…はははっ」
「あああ!笑うんじゃねえ!恥ずかしくなんだろうが!」
「はぁ…すみません。
あ、それ」
跡部さんの手元に握られたそれを、俺が指差すと彼もソチラに視線を移した。
「?これか?」
「……跡部さんもコンポタ買いに来たんですね」
「あー、まぁな」
「俺も買いに来たんですよ。それ」
「…お前、こんなもんより日本茶啜ってそうな感じがするけどな」
少し微笑みながらそう言う跡部さんに心臓が跳ねる。
「俺にだって、コンポタ飲みたい時もあるんですよ」
まぁ、原因は貴方なんですが。
それは心の中で呟き小銭を自販機に入れた。
「なぁ、」
俺がボタンを押そうとしたとき、跡部さんが声をかけてきた。
顔は見ていなかったが、やけに真剣そうな声で呼ぶからまた心臓が跳ねる。
「なん…ですか?」
「去年の今日、まぁお前の誕生日に俺が何したか覚えてるか?」
唐突に、しかも直球な質問に、俺は慌てすぎてコンポタの隣にあった冷たいサイダーを押してしまった。
こんな寒い日にサイダーなんか飲むやついないだろ!120円返せ!
じゃなくて、
「はい…、覚えてます」
「あの時、俺様は不覚にもお前の唇が可愛すぎてキスしちまったが、今年こそは言うぞ。言うからな!よく聞きやがれ!」
「なんで聞いてもらう側なのにそんなウザいんですか?才能ですか?」
「はっ…この一年、お前からのありとあらゆるイタズラ・嫌がらせにあって、正直嫌われてると思ったぜ…」
「まともな神経してるんですね」
「アラ以外みたいな顔すんな、傷つくだろうが…まぁいい。
お前は言わなきゃわかんなかった様だが、俺様はなお前のことが好きで好きで仕方ねぇんだよ!」
「恥ずかしいからやめてくださいこんなところで!」
「いや、聞けって言っただろ!好きだ日吉!」
「もう俺も好きですから黙ってください!……あ、」
「……本当か?」
「ちょ、今のは、その…貴方に黙ってほしくて」
「嘘吐け!明らかに照れてんじゃねぇか!大人しく俺様のモンになりな」
「あぁ……もういいです、ずっと好きでした。はい、終わり。解散!」
恥ずかしさとか嬉しさとか色々な感情が混ざりに混ざって、この場から逃げようとしたら、跡部さんに腕を掴まれ、訳もわからず抱きしめられた。
「落ち着けよ日吉。俺様とお前は両想いなんだよ……ったく、一年も俺様を待たせやがって」
「な!それはアンタが何も言わなかったからじゃないですか! 俺が、俺がどんだけ悩んだことか…」
「悪かったよ、好きだ日吉」
「遅いし…」
「お前も好きなんだろ?」
「…不本意ながら」
「可愛くね…可愛いなちくしょう」
「可愛くないで…っ!」
男なのに可愛いだなんて言われて、黙っていられるか!と顔を上げたら、すぐにあの時と同じ柔らかくて優しい唇の感触がした。
「誕生日おめでとう、日吉。これからよろしくな」
無駄に良い声でそう囁かれてしまったら、俺は頷くしかないでしょう?
111205
日吉、誕生日おめでとう!
長くなりましたが、ここまでお付き合いしてくださってありがとうございました(^O^)
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