『誕生日おめでとう』
貴方はまだ一年生だった俺にそう言って、優しくキスをした。
「はぁ……」
「あれから一年経っちゃったね」
俺の溜め息の意味が分かったのか、隣にいる鳳が気持ちを代弁してくれた。
「いつの間にか、あの人の誕生日も過ぎちまったしな…俺もう愛想つかれてるだろ」
「俺は、跡部さんは日吉からの返事も聞かないで諦めるような人じゃないと思うよ」
「いや、分からない……だってあの人だぞ?」
「うーん、そう言われたら自信なくなっちゃうなあ」
「もうこのままで良い…か…」
「ダメだよ日吉!諦めたらダメだ! 俺だって頑張って宍戸さんに告白し続けたら、OKもらえたんだもん。 日吉だって大丈夫だから、ね?」
「………、」
一年前の今日、ずっと好きだった跡部さんからおめでとうの言葉と突然のキスをもらった。
勿論、口に。勿論、はじめての。
一瞬にして一大事なことをしてくれた彼はその後じゃあな、といつもと変わらぬ態度で一言残して去ってしまった。
しばらく、なにをされたかわからなかった俺は下校時間を知らせる放送が流れるまで、テニスコートの隅で立ちすくんだままだった。
これは、俺のことが好きだと解釈しても良いのだろうかと、そればかりが頭を駆け巡った。
キスをするくらいなら告白の一つや二つ、跡部さんならあってもいいじゃないか。
それとも、彼が生まれ育った地ではこれが告白の仕方…或いはお祝いの仕方なのだろうか。
一体どっちなんだ!
どちらでも喜ばしいことは確かだが、もし好きでいてくれるなら……大事件だ。
「鳳、俺はたった今一年間俺を悩ませた跡部さんをいっそ憎んでやろうかと思った」
「やめて日吉、思い直して日吉。大丈夫、自信持って告白すれば良いんだよ!」
「お前に自信があっても俺に自信がないんだ…。俺、この一年間、どう接していいか分からなかったからずっと跡部さんを困らせてきたんだ……」
「そんなの、跡部さんなら日吉の照れ隠しだってわかってくれるよ」
「でも…ラケット隠したり、つまずかせたり、膝かっくんしたり、寝顔に落書きしたり、果てにはあの人の誕生日に虫あげたんだぞ、しかも節足のやつ。お前ならそんなヤツ好きになるのか?お前ですら嫌いになるだろ…だよな、やっぱ跡部さん俺のこと嫌いだよな…」
「日吉…そんなことしてたんだね…」
「もう、ダメだ…考えたらすごい悲しくなってきた。俺、柄にもなく今からコンポタ買ってくる。あったかいやつ。自販機で」
「う、うん…いってらっしゃい」
若干引き気味の鳳に見送られて、俺はコンポタのある自販機へ向かった。
111205
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