誰かとつるむことは好きじゃなかった。
それはずっと寂しい家庭で育ってきたからかもしれない。
でもこいつらと出会ってからは、笑いあったり、悲しんだりすることも一緒に過ごす全部が俺の心を癒してくれた。
「それは多分、俺もだよ」
みんなが祝ってくれた誕生日。
幸せな時間ばかりが過ぎてしまって、もう日が暮れそうな頃。
俺と幸村は学校の屋上で二人並んで沈んでいく夕日を見ていた。
ポツリ、とつぶやいた俺の言葉に幸村がそう返してきたのは決して予想外ではなかった。
それは、心のどこかで幸村がなんとなく"こちら"側だと思っていたからだ。
「俺も仁王と同じ。みんなに出会うまでは他の人のことなんてどうでも良いと思ってたよ。
悪いけど、あの頃は真田ですらあまり信用していなかったかもしれない」
比較的ゆっくりと話す。
だけど、彼が発していく言葉一つ一つに鼓動が次第と早くなっていった。
あぁ、やっぱり…
なんて思った辺り、昔と比べて随分と他人に興味を持つようになった。
「俺も目に写る全てを疑って、虚勢を張って、弱い自分ずっと隠しとったんじゃな…ってようやく気づいた」
「他人に興味がないんじゃなくって、他人と関わって自分が傷つくのが怖かった。 でも、病気になってすごい毎日が辛かった時に、お前俺に何て言ったか覚えてる?」
「さぁの、覚えとらん」
クスクスと笑う幸村を見てなんだか照れ臭くなった。
本当は覚えているし、絶対に忘れない言葉を俺はこいつに言った。
「ふふっ、何照れてるの?」
『こんなに苦しくて辛いならさっさと死にたい。
俺が死んだってどうせ悲しむ奴なんて誰もいない。 可哀想な子として、周りに同情されてそれで終わりなんだ。
そんなのが、一番怖い。
だから本当に酷くなる前に、早く死んでしまいたいよ』
涙を流して俺の制服にしがみつく幸村を目の前にして、初めて彼が人間らしいところを見せてくれた。
その姿に安堵したのも確かだった。
「正直、仁王がそこまで考えてるなんて思わなくて…かなり驚いたよ」
「失礼じゃな」
「だって…ね、俺も全く同なじこと考えてたしね。
なんとなく掴み所がなくて、明日急にいなくなっちゃいそうだった。
だからあの時仁王に自分の気持ちを告げてなかったら、今ごろ俺はここにいないかもしれない。
ありがとうね」
「俺はどっかの放浪男とは違うぜよ。 ってか、そんな恥ずかしいことをよくもまあ平気な顔して言えるの〜」
「だってそこが俺の長所だし」
おどけて人差し指を自分の頬に軽く当てる姿は、お世辞抜きでそこらへんの女子より可愛らしい。本人に言ったら怒られるので絶対に言わないが…
「こんな人生も悪くなかった…ナリ」
「え、死ぬの?」
「プリッ」
「ここ屋上なんだから、冗談でもそんなんやめてよね」
「すまんすまん。そういう訳で言うたんじゃない。
お前さんと二人だけで分かち合える人生も、案外楽しいもんじゃなって言いたかったんじゃよ」
「…っ、当たり前だろばーか!」
一瞬驚いた幸村はすぐに素の笑顔で笑ってくれた。
『もし幸村が死んだら、俺が一人になる。
俺の気持ちをわかってくれるんはもうお前さんしかおらんのに。
一人になってしもうたら俺本当に"独り"になる。
嫌じゃ、幸村と一緒におりたい。
幸村と、みんなと一緒じゃなきゃ意味ない……
だから、死なんで。死にたいなんて言わんで。
生きてくんしゃい…っ』
俺は俺のわがままで幸村を引き留めたのに、文句一つも言わずに、隣にいてくれてありがとう。
珍しく、そんなことを彼に言ったら顔を赤くして誕生日おめでとうばかはる!と叫びながら勢い良く抱きついてきた。
温かいな、お前さん。
柄にもなく人の温かさをしんみりと感じ、とても大切な懐かしい話をしたそんな冬の俺の誕生日。
111204
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