俺が知る限り、跡部さんはとても俺が好きだ。
もう氷帝じゃ俺と跡部さんが付き合ってるなんてことは常識だ。
しかもそれを良いことに、跡部さんは校内でも平気で抱き締めてきたり、不意打ちのキスをしてきたりする。
彼の性格上、まず隠すなんてことは無理だろうと付き合い始めた頃から思っていたが、ここまでとは。頼むからいっぺん頭どつかせてください。
俺は跡部さんとは違って派手なことは好きではないし、どちらかと言えば隠しておきたい。
だって廊下とかみんながいる前でいきなり「日吉、今日もきれいだな。愛してるぜ」なんて言うんですよ、あのバカ。どんだけだよ普通言わねぇよ。
周りの女子のにやつきが怖い。その女子からの謎の期待に答えようとして跡部さんがとる行動も怖い。
毎日そんな辱しめをうけて、この俺が素直でいるはずがなく。
会ってもそっけない態度をとるのはもう当たり前だ。
別に寂しくなんかない…こともないが、俺の言うことをちっとも聞いてくれないことに対しての罰だ。
「つれねぇな、日吉」
「つれないもなにもここどこだか知ってますか?」
「体育館倉庫」
「わかってるんじゃないですか。俺はてっきり自分の家と勘違いしてるんじゃないかって心配になりました」
「んなわけねぇだろ………おい、何だその手は」
「跡部さんがこんなとこで盛ろうとするんで、阻止しようとしたまでです」
先ほど、このお坊っちゃんが言ったように、ここは体育館倉庫。
普段は同じ学年から二クラスが体育館を使用するが、今日はたまたま跡部さんのクラスと体育が重なったのだ。
俺の今日の運勢は絶対に悪い。
今の俺の状態を説明しよう。
体育が終わった後、まだ着替えてもない俺は同じく着替えていない跡部さんに無理矢理ここに連れてこられ、器械体操用のマットに押し倒され体操服の前を捲られたので、彼の腕を掴んでいる…と、まぁこんなところだ。
因みに彼は二人きりになればどこでだって襲ってくる。その度に俺は全力で拒否って、放課後にバカみたいに抱かれるのだ。
「お前は、シたくねぇの?」
「そんな残念そうな顔したってダメです」
「ちっ」
「舌打ちしないでください。したいのはこっちの方なんですから」
「じゃあ、目ぇつぶってろ」
「はい?」
「聞こえなかったフリしてんじゃねぇよ。目、つぶってろ」
「……っ」
なんとか諦めてくれた彼が、お決まりの台詞を吐く。
この後されることがわかっているから、少しからかってみたら逆効果だった。
聞こえないフリをしたら、あの無駄に良い声が耳を支配した。何度もそれをされているが、未だに慣れないし、未だに力が抜けてしまう。
おとなしく目をつぶっていれば、唇にやわらかく、あたたかい感触がした。
――いつもは噛みつくようなキスばかりなのに。
不思議に思いつつも、唇が離れてから目をそっと開ければ目の前にはいつもの誇らしげに笑う跡部さんがいた。
「……ふ、たまにはこんなキスも良いだろ? お前の期待してる顔、最高に可愛かったぜ」
「……殴ってもいいですか」
実はいつもの様なキスを期待していたなんて、一生言ってやらないからな。
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