夏が終わる(幸村と赤也)






「おれ、先輩と一緒に全国に行けて良かったッス」


「…………」


「先輩と焼き肉食べたり、イップスされたり…痛いことも、真田副部長ほどじゃないけど、あったりしたけど」



「…………」



「でも、」



「……赤也」



「先輩とテニスできて、楽しかった」


目からこぼれる涙を、先輩が困った顔をしながら指で拭ってくれる。

ごめんね、先輩。いつまでも子供で。

誰よりも悔しい先輩より先に泣いちゃって。



本当は、今すぐにでも抱きつきたいけど

おれがそうやってこの人に、王者立海の頂点に君臨してきた人に





「"甘える資格なんて、俺にはない"

って、そう思ってる?」


「っ!」

さっきまで流れ出ていた涙が止まってしまうくらい驚いた。

そんな俺の顔を見た先輩は、いつものようにフッと優しい笑顔になる。


「当たりなんだね。
赤也は分かりやすくて、好きだよ。

でも、びっくりしたなぁ…俺の敗北をお前がそんなに気にしてるなんて。」


「お、おれ…っ 先輩が負けた姿なんて、見たくなかったから…」


「そっか…俺の負ける姿、無様だったよな」


「違う!
そうじゃなくて、おれ……」


「うん?」


「誰かに負ける、先輩の姿が見たくなかったんだ…!

先輩を倒すのは自分なんだって、今までで練習がんばっ……」


言いかけてる途中で、先輩が俺の腕を引っ張って抱き寄せた。



「ごめん、赤也。



俺、負けちゃったよ。」



先輩から伝わる微かな震えは、俺と同じで泣いているから。


常勝を胸にどれだけ先輩が病気と闘って、頑張って復帰したのかなんて、俺たち立海にしかわからない。

だから今、この人が泣いている気持ちを少しくらい理解できてもいいかな。


今だけでも、一緒に泣いてもいいかな。



「おれ、来年は絶対に優勝します。
もっともっと、頑張って、それで優勝するから…


だから優勝した時は、






また、テニスしましょう。」


「そう、だね…

優勝したらまた、ゲームしよう。ふふっ赤也にはまだ、負けられないなぁ」


また笑ってくれた先輩の笑顔はどんな試合に勝ったときよりも、綺麗で優しい笑顔だった。






110918







 

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テーマ「人外ファンタジー」
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