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「……………」 幸村くんから真田のロッカーの上にある段ボールの中に、ヘアバンドのスペアがあるから取ってこいという指令を受け、部室に入って真田のロッカーの前に立ったはいいものの……届かねえ。 もしかして幸村くん、俺をからかうために頼んだのかも。だからと言って、文句の一つも言えないけど。 ていうか、そこら辺に踏み台になりそうな物もない。 けど手ぶらで戻ったら絶対笑われるし…それだけは避けたい。 「…………黙っていても、取れないものは取れないぞ」 「うわっ!?」 突然後ろから声がしたので肩がビクッと跳ねる。 「んだ、柳かよい…」 「段ボールに手が届かないから立ち尽くしていた確率、100%」 「100!?」 どうやら柳には全部分かっているらしい。 でも柳に頼むのもなんか嫌だ。 「取ってやろうか?」 「結構デス」 「だろうな」 「ならば、これはどうだろうか」 「な…っ」 いきなり足が地面から離れた…っていうか柳が俺を抱えた。 体重がアレなはずなのに、何でこんな軽々と抱えちゃってるんだよ。 「あの、柳…さん」 「自分の手で取りたいんだろう?さあ、取れ」 いつもの調子で言うもんだから俺も何故か大人しく段ボールに手を伸ばし、中をガサガサと探ってヘアバンドを取り出した。 「取れたようだな」 「ん、ああ。もういいぜ…」 「…………丸井」 「は?何だよ…って、ちょっ!」 「少し黙っていろ」 やっと下ろしてもらえたと思ったのもつかの間。そのまま柳に後ろからホールドされてしまった。 コイツ、細く見えるのにめちゃくちゃ力強いんだけど。 「丸井」 「う、わ…」 耳元で名前を呼ばれて思わず目をギュッと瞑る。何だよこれ、ちょっとドキドキする… 「お前……」 密着しているので背中から柳の心臓の鼓動が直に伝わってくる。 どんどん顔が赤くなって、柳の腕に抵抗して掴んだ掌には少し汗が滲んできた。 「やな…ぎ」 「また太っただろう」 「…………」 「ふっ…期待、したか?」 「し、してねーよ!!」 「それにしては、耳まで真っ赤だが」 「………いいからもう離せよ」 「断る…なんて言ったら、困るか?」 「…っ!」 ちょっとだけ後ろを振り向いたら、意地悪く笑う柳がいて、更に顔が赤くなった気がした。 惹かれる (君だけに、) 120612 |