55.慕う(春財) | |
別にイケメンでもべっぴんさんでもないのに、何で惚れてもうたんやろ。 考えれば考えるほどドツボにハマっていくような感じがした。 「じゃあ、この上着ユウくんに渡しといてね」 「分かりました」 「あ、あと〜蔵リンに明日の放課後は生徒会の話し合いがあるさかい、部活遅れていくって伝えといてもらえんかなぁ?」 「りょーかいッス」 俺が小春さんを意識し始めたのは、よくこうして頼み事をされるようになってからだった。 初めは、何でこんなホモからの頼み事なんてきかなアカンねや… なんて嫌々ながら引き受けていたけど、小春さんに用事を頼まれることで、俺は部長を始めオサムちゃんまで以前と比べて格段と話しやすくなっていったのだ。 そのことに気づいた時、俺は真っ先に小春さんの策略だっのだと分かった。 こんな消極的で誰とも仲良くしようともしない俺のためにしてくれたことなんだ、と。 そして、この人は俺やみんなが思うとる以上に心が広くて、優しくて、大人なんやって。 「いっつも財前くんにばっか頼んでしもうて堪忍な〜」 「別にええッスよ。俺、寧ろ小春さんに感謝しとります」 「…そう、ならよかった」 ニコッと笑って、頭を撫でてくれた小春さんはいつものあのクネクネした歩き方で鼻歌混じりに去っていった。 (やっぱり、何で惚れてもうたんやろ。) 彼の背中を遠目に見ながら、ユウジくんの上着をそこら辺に投げ捨てた。 慕う (俺とは違う、大人なアンタを。) 120530 |