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真っ白な病室が嫌だった。 そこで眠っている幸村くんを見るのも嫌だった。 その姿が怖いくらい綺麗で、怖いくらい"無"だった。 だから俺は病室の扉の前でいつも願ってた。 どうか、起きていますようにって。 そう念じてから扉を開けて起きている彼を確認すれば、自然と顔が綻んでアイツらには見せたことのない顔になる。それほど嬉しいんだ。 でも眠っている時は、もう一度扉を閉めて時間をおいてからまた病室を訪れた。 本当は、眠っていたって横にいてあげるべきなんだって分かっているけど、どうしてもあの場所で静かに寝ている幸村くんを見ると不安と恐怖に襲われる。 儚げだからよりそういう風に連想してしまうのかもしれない。 例えそうじゃなくたって、頭で理解してても実際に見ればもう、なにも考えられなくなる。 「怖い?」 幸村くんが起きている日にお見舞いに行ったある夕暮れ時、唐突に聞かれた。 震えている肩を見て、あぁ…怖いのは俺だけじゃないんだ。なんて、当たり前のことにやっと気付いた。 震える幸村くんの手に、自分の手を重ねてしっかりと握る。 「怖いよ。正直、もう幸村くんとテニスできなくなるんじゃないかと思うと、この部屋に入るのも怖い。 それ以上に、いなくなっちゃいそうで怖い。 …ごめん、幸村くんの方がずっと辛くて怖い思いしてんのに、情けなくて、ごめん」 今まで自分の心の中にあった思いを一気に良いながら、握った手に力を入れる。 絶対に、手離したくない。 でも逆らえない運命があることにいちいち怯えてしまう。 ねぇ、こんな臆病な俺が幸村くんを支えていける? 「…ううん。多分みんな、ブン太と同じ風に思ってる。いなくなりそうって、俺ですら思っちゃうもん」 重ねていた俺の手の上に更に手をのせ、優しく包むように握りしめてくれた。 何でこんな、手を握られただけなのに安心するんだろう。 俯いて、幸村くんの両手に包まれた手を見ながらぼんやりとそんなことを思いながらも、彼の言葉に耳を傾ける。 「でもこうしてブン太が素直に言ってくれるから、俺も素直になれる。 "怖い"って、言える。だから次は乗り越えていきたいんだ。ずっと怯えてるなんて、俺らしくないだろ?」 ハッと顔を上げれば、ふわりと笑う幸村くんがいて、そんな彼を見たら、もう身体が勝手に動いて訳も分からず抱き締めていた。 「だから、一緒にいてほしいんだ。ブン太が傍にいてくれれば、俺はいくらでも頑張れるから」 「うん…っ、頑張ろう、乗り越えよう、一緒に」 どこからか力が湧いてきて、さっきまでは全然思ってもいなかった『大丈夫』って言葉が頭の中に駆け巡った。 幸村くんの言葉と笑顔でこんなにも変わるもんなんだと思うと、やっぱりこの人はすごい。 「…だからさ、俺が寝てても、隣にいて」 コソッと、耳元でそう呟かれた。 乗り越えるだなんて言っときながら、不安気に頼まれてしまえば、断る理由なんてどこにもない。 そんな幸村くんが可愛いとか思っちゃったのは、秘密な? 眠る (傍らには大好きな君がいてくれる。) 120407 |