33.放す(日跡) | |
「別れましょう」 この言葉を口に出すのに、どのくらい時間がかかっただろうか。 跡部さんはスラスラと部誌を書いていた手を止めた。 少し見開いた目でこちらを見てきた。 その向けられた蒼い瞳には、何度見ても吸い込まれそうになってしまう。 自分でも良く分かっている。 こんな綺麗で頭の良い、好きで好きで堪らない人を手放すなんて可笑しいと。 だけどこのままじゃダメなんだ。 このままじゃ、俺はいつまで経っても貴方を越えられない。 付き合う前からずっと焦っていた。 只でさえ、年の差という壁があるのにテニスの腕も越えられない……俺は何て未熟なんだと。 「すみません、俺のワガママなんです」 だから好きなだけ殴ってくれても構わない。 跡部さんとの関係を断ち切って、貴方に認められるような…そんな男になったら。 きっとその時は、 「…待ってるからな」 「えっ」 「お前が納得してまた俺のとこに来てくれるの、待ってるから」 そう言われた途端に身体が勝手に動き、気づいた時にはもう彼を腕の中に収めていた。 「ごめん、最後に少しだけ」 そんな情けない俺を少し困ったように笑う跡部さんは、やっぱり誰よりも綺麗で誰よりも俺をわかってくれる、そんな大切な存在。 放す (信じて、待ってて。) 120303 |