22.躊躇う(蔵謙←千歳) | |
好きになった子は親友の恋人だった。 どこかのドラマにありそうな関係だが、これをドラマと一緒にされては困る。 「はは、またやってもうた〜!」 そうやって本当は痛いのに我慢している姿を見ると、必死に抑えているものが簡単にぶっ飛びそうになる。 「笑い事じゃなかよ」 得意の俊足でコートを縦横無尽に走り回っていたら派手に転けた謙也に手当てをしてやるため、部室まで血をダラダラと流す彼を運んだ。 二人きりの空間にどきっと胸が高鳴る。 「な、千歳」 「なんね?」 救急箱を取り出す俺の背中に声がかけられた。 振り向けば困ったように笑う謙也。 「俺な、転けた時にすぐ千歳が来てくれて、部室まで運んで手当てしてくれてごっつ嬉しかった」 「うん」 そんなの当たり前だ。好きな子が怪我をしたのに飛んでいかない奴がどこに………あぁ、そこにいた。 「ホントは白石に来てほしかったんやね」 「ごめん…っ、千歳がせっかく心配して来てくれたんに、俺勝手に落ち込んで…」 足の痛みからか、それとも別の何かによる痛みからかはわからなかいが、謙也の目には涙が溜まっていた。 俺なら泣かしたりしないのに。 「最近な、あんま話しとかしとらんくて白石の愚痴とかも聞いとらんから、多分イラついてんねや。 せやから、どこにぶつけたらええんかも分からんくて俺のこと見て見ぬフリしたんやな」 「それって謙也ばっかり傷ついて終わると」 「……せやな」 自嘲気味に笑う彼を見ていたらそれこそもう、抑えが利かなくなってしまう。 「でもこれが俺の運命なんかもしれん」 肩を震わしながらずっとしまってきた思いを吐き出す様に言った謙也に手を伸ばした。 ダメだ。手を引っ込めないと。 頭のどこかから声がした。 奪うなら今しかない。そんなこと、百も承知で俺は手を伸ばしているんだ。 この手で抱き締めて、砂を吐くような甘い言葉も言ってやる。 でもそうじゃないだろ? 俺が一番に望んでいることは、彼を自分のものにすることじゃない。困らせることじゃない。傷つけることじゃない。 「謙也には、心ん底から笑っとってほしか」 彼がこちらを向く前に、俺はこの手を下げた。 躊躇う (きっと幸せになって) 111218 |