12.囁く(跡部) | |
久々に部活のない休日に、アイツは俺の家に来た。 前々から家に来たがっていたから、ちゃんと予定を空けていた。 だからゆっくり2人でいられると思っていたんだ。 けれどそんな願いも虚しく、恋人が来て10分もしない内に親父から連絡が入った。 『景吾様、社長から直ちに会社に来るようにと連絡が入りました』 『アーン? 俺は今忙しいから無理だと伝えてくれ』 『何でも急用な様でして…どうかよろしくお願いします』 部屋にある回線で執事と会話をしながら、チラチラと顔を伺う。 "良いから、行ってきて" 俺と執事の会話から事態を察したらしく、口パクでそう伝えてきた。 『わかった…今からそっちに行くから車を用意しておいてくれ』 『かしこまりました』 「悪ぃな…」 「大丈夫、待ってるから」 一言詫びを入れ、笑顔で見送ってくれる彼にキスをして部屋を出た。 バンッ! 「待たせたな。思いの外時間かかっちま…って」 親父の会社から大急ぎで帰ってきた俺は、思いっきり部屋の扉を開けたらそこにはスヤスヤと可愛らしくベッドで眠る恋人の姿があった。 「んだコレ…襲えってことか?」 結構深く眠っているようで、声を出してもビクともしない。 横たわって寝ている側に腰掛け、頬っぺたをつついてみた。 (そういや…最近忙しくて2人で話すことなんてなかなか無かったな) こうして彼に触れたのもいつぶりだっただろうか。 ふにふにした頬っぺたが気持ち良くて、何度もつついていたら、ふいに濡れた箇所に触れた。 「……泣いてた、のか?」 そうだよな、泣きたくもなるだろう。 こうしてせっかく2人になれたのに、すぐ俺は出ていくし、部屋には一人だし。 「寂しい思いさせて、ごめん」 まだ眠り続ける彼の耳元に口を近づけて呟くように囁いた。 待っててくれてありがとう。 「好きだぜ」 囁く (早く、君に伝えたい) 111107 鍋の日だから鍋ネタにしようか迷ったけど、やっぱこっちで。 |