恋する動詞111題 | ナノ

83.茶化す(財小)

「好き…や」

「はい?」

「せやから、好きなんや…お前が」

目の前にいる財前は、目を丸めて俺をジッと見てくる。

俺も、彼から目を逸らさない。


「あの先輩…俺、財前光なんスけど」

「誰とも間違えとらんわ」

「え、じゃあホンマに俺のこと…?」

「なな何度も言わすな…!」


財前が身を乗り出したので、顔が至近距離に近づいた。
咄嗟に後ずさったら、ガシッと腕を掴まれて、凄い力で引き寄せられた。

気がつけば財前に抱き締められていて、何が何だかさっぱりだ。


「好きって、先輩俺のこと好きやったん…?」

「せやから、何べんも…」

「何で教えてくれへんかったんや」

俺を見上げて睨み付けてくる彼に身体が固まる。
え、何で俺、睨まれてるの?
心臓の音がうるさすぎて、何も考えられない。


「……っ」

「……顔、真っ赤」

「当たり前やん!」

「ふーん…」

「……つーかなんで、抱き締めとるん」

「手が滑った」



今度は後頭部を掴まれて、無理矢理キスをされた。


「また手が滑ってもうたわ」


怪しく笑う財前に心臓がまたドクン、ドクンと鼓動が大きく波打つ。

こんな短時間で手が滑り過ぎやろ、なんて…俺も何真面目にツッコミなんか入れたんだろう。



お陰で、肝心な言葉を聞きそびれてしまった。



茶化す

(言ってよ、一言。)


120825


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