83.茶化す(財小) | |
「好き…や」 「はい?」 「せやから、好きなんや…お前が」 目の前にいる財前は、目を丸めて俺をジッと見てくる。 俺も、彼から目を逸らさない。 「あの先輩…俺、財前光なんスけど」 「誰とも間違えとらんわ」 「え、じゃあホンマに俺のこと…?」 「なな何度も言わすな…!」 財前が身を乗り出したので、顔が至近距離に近づいた。 咄嗟に後ずさったら、ガシッと腕を掴まれて、凄い力で引き寄せられた。 気がつけば財前に抱き締められていて、何が何だかさっぱりだ。 「好きって、先輩俺のこと好きやったん…?」 「せやから、何べんも…」 「何で教えてくれへんかったんや」 俺を見上げて睨み付けてくる彼に身体が固まる。 え、何で俺、睨まれてるの? 心臓の音がうるさすぎて、何も考えられない。 「……っ」 「……顔、真っ赤」 「当たり前やん!」 「ふーん…」 「……つーかなんで、抱き締めとるん」 「手が滑った」 今度は後頭部を掴まれて、無理矢理キスをされた。 「また手が滑ってもうたわ」 怪しく笑う財前に心臓がまたドクン、ドクンと鼓動が大きく波打つ。 こんな短時間で手が滑り過ぎやろ、なんて…俺も何真面目にツッコミなんか入れたんだろう。 お陰で、肝心な言葉を聞きそびれてしまった。 茶化す (言ってよ、一言。) 120825 |