恋する動詞111題 | ナノ

82.撫でる(樺ジロ)

「芥川さん…」


誰かが俺の名前を優しく呼んでくれる。

うっすらと目を開けると、そこには樺地がいた。


「か…ば、樺地〜…おっはよー」

「ウス…おはよう…ございます」


表情が変わることもなく、静かにおはようと挨拶してくれる。

そんな些細な交流も、俺にとってはすごく幸せなこと。

だって樺地が俺を嫌いだったら、こんな面倒なこと毎回してくれない。
いくら跡部から頼まれたことでも、樺地だって嫌なら嫌って言うと思う。それに、跡部は鋭いから樺地のちょっとの変化も分かっちゃうし。


「今日もありがとう」

「いえ…」

「…あのね、」


起き上がって彼を見上げる。


(…これだけはいくら言っても慣れないんだよなぁ)


少し恥ずかしいけど、控えている試合をがんばれる様に約束を結ぶ。
これがあるから、俺はがんばれるんだ。


「試合に勝ったら、いつものしてくれる?」

「ウス」

「じゃあ俺めちゃくちゃ頑張るC〜!……えへへっ」

「……」


やっぱり照れ臭くて、笑ってごまかす俺に樺地も心なしか微笑んでくれた様な気がした。

樺地の手で撫でてもらうと、本当に頑張って良かった、勝って良かったって思える。
だから俺は、がんばれるんだ。




「………大好きだC」

「……ウス」

「えっ」


聞こえるはずが無いと思って、すごくすごく小さな声で伝えた告白。


ねぇ、その肯定を、俺はどう捉えたらいい?


頬がどうしても緩んでしまって跡部に不思議がられたけど、理由は教えてあげない。



撫でる

(大きな手、小さな笑顔)


120824


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