82.撫でる(樺ジロ) | |
「芥川さん…」 誰かが俺の名前を優しく呼んでくれる。 うっすらと目を開けると、そこには樺地がいた。 「か…ば、樺地〜…おっはよー」 「ウス…おはよう…ございます」 表情が変わることもなく、静かにおはようと挨拶してくれる。 そんな些細な交流も、俺にとってはすごく幸せなこと。 だって樺地が俺を嫌いだったら、こんな面倒なこと毎回してくれない。 いくら跡部から頼まれたことでも、樺地だって嫌なら嫌って言うと思う。それに、跡部は鋭いから樺地のちょっとの変化も分かっちゃうし。 「今日もありがとう」 「いえ…」 「…あのね、」 起き上がって彼を見上げる。 (…これだけはいくら言っても慣れないんだよなぁ) 少し恥ずかしいけど、控えている試合をがんばれる様に約束を結ぶ。 これがあるから、俺はがんばれるんだ。 「試合に勝ったら、いつものしてくれる?」 「ウス」 「じゃあ俺めちゃくちゃ頑張るC〜!……えへへっ」 「……」 やっぱり照れ臭くて、笑ってごまかす俺に樺地も心なしか微笑んでくれた様な気がした。 樺地の手で撫でてもらうと、本当に頑張って良かった、勝って良かったって思える。 だから俺は、がんばれるんだ。 「………大好きだC」 「……ウス」 「えっ」 聞こえるはずが無いと思って、すごくすごく小さな声で伝えた告白。 ねぇ、その肯定を、俺はどう捉えたらいい? 頬がどうしても緩んでしまって跡部に不思議がられたけど、理由は教えてあげない。 撫でる (大きな手、小さな笑顔) 120824 |