恋する動詞111題 | ナノ

80.悟る(ユウ白)

「待って待って待って!」

「待たれへん」


もうみんな帰ってしまった後の部室で、俺は何故かユウジに迫られていた。

嘘やん、ユウジは小春と違うん!?


ずいずいと歩み寄ってくる彼に、後ずさってばかりいた俺は、ガシャンッとロッカーに背中を打った。



「さ、もう逃げられへんでぇ…白石」

「…何の冗談?ドッキリか?」

「ドッキリやのうて本気やで」


ニヤリと笑うユウジが妙に怖くて、顔から血の気が引くのがわかった。

ユウジの両手が俺の顔の横にあって、本当にもう逃がさないとでも言っているような状態だ。


「ホンマに…?」

「まだ疑うてんのか?」

「せやかて、ユウジは小春が好きなんやろ…?」

「小春にはもう言うてあるし、応援もしてくれとる」


俺から目線を外さないユウジに、何故か俺が目線を逸らしてしまう。
何で、何でそんなに真剣な顔をしてるんだろう。

いつもみたいに、ヘラヘラ笑いながら言ってくれた方が何倍も良かった。
そしたらこんなに戸惑わなくても良かったのに。


「返事は、なくてもええ…けど」


薄目になったユウジがどんどん俺に顔を近づけてくる。

身体が動かない。


ゆっくりと触れた唇がやけに温かく感じて、そこから広がったように頬にも熱が伝わって赤くなった。


「好きや…蔵」



目を瞑って、拳を握りしめる。

この高鳴っている心臓は、何を意味している?



もしかしたら…もしかするのかもしれない。



悟る

(この気持ちを確信に変えるには、どうしたら良い?)


120820


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