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好きなら、奪えば良いんだ。 俺は元々好きになった相手を易々と取られても良いなんて、絶対に思えない性格だからその答えにたどり着いたのは割りと早かった。 入学した時からずっと好きだった丸井先輩が、昨日の放課後に仁王先輩から告白されている現場を目撃した。 考えさせてくれって言ってたけど、もしかしたら返事はOKかもしれない。 あの二人はテニス部の中でも特別仲が良いから、丸井先輩がOKする確率が高いことなんて、いくら俺が馬鹿でもそれはわかる。 でも俺だって丸井先輩が好きで、ずっと手に入れたかったんだ。 後輩だからって可愛がってもらってたんだろうけど、俺は先輩として見てたわけじゃなくて、"好きな人"として接してきた。 声を聞く度に、触れられる度に、笑ってくれる度に、好きって気持ちがどんどん深くなっていった。 「…丸井、先輩」 「おう赤也じゃん」 放課後。 昨日告白現場を目撃した場所に通じる廊下で座り込んできたら、案の定先輩が来た。 「今から仁王先輩のとこッスか?」 「え、何で知ってんだよい」 「昨日…見ちゃったんで」 「そ、そっか。でも仁王のこと軽蔑とか、しないでやってくんねぇかな…」 必死に俺に訴えかけてくる丸井先輩。 何でそんなに先輩が必死なの? …好きだから? 頭の中で何かが弾けて、気がついたら先輩の手を引いて先輩が来た道を引き返す。 後ろで無理矢理引っ張られている丸井先輩が何か言ってたけど、耳に入らなくて、俺がやっと足を止めた時にはもう先輩も何も言ってなかった。 「……仁王先輩になんて、渡しませんから」 「は?こんなとこまで連れてきといて何言ってんだよ」 「好きなんです。俺も、丸井先輩が」 「………っ、嘘だ」 「本当ッス」 掴んでいた手首を俺の方へ引き寄せて気を抜いていた先輩を抱き締める。 「…離せ、よ!」 「嫌だ」 「………」 困らせてるのはよくわかる。 丸井先輩が仁王先輩を好きなのも、何となくわかった。 でもやっぱり、俺は諦められない。 「覚悟、しといてくださいよ?」 どんなことがあっても、俺はアンタを手に入れるから。 攫う (君の心ごと、俺の手で。) 120725 |