ウォーアイニー



…疲れた、本気で疲れた
残業続きで疲れ切った体を引きずり…でも少しだけ、高揚した気分で我が家へと向かう
残業が続いていたせいで、最近は一緒に暮らしている可愛くて愛しい年上の恋人の寝顔しか見ていなかったが
扱っていた案件にようやくめどがつき
ようやく、定時に家に帰ってこれたのだ

ふと自宅を見れば、窓に灯りが灯っていて
疲れてるとき、家に誰かがいるというのはとても暖かくて
それが、愛しい人だと思うと、嬉しくすら覚えて

「マスター、ただいま」

疲れで若干ハイになったテンションのまま、ドアノブに手をかけ
扉を開けた瞬間

「アイヤー、ソリッドお帰りアルー!」

と、やたらハイテンションなマスターが満面の笑みで立っていた
真っ赤な生地に金の刺繍のついた、チャイナドレス装備で
しかも、髪をお団子に結っているというオプション付き

「………」

俺は、何かを期待するように見つめるマスターの姿をたっぷり10秒ほど眺めてから
とりあえず、ゆっくりと扉を閉めた





「…と、言うわけなんだ…」

「はぁ…」

あれから
扉の前で大きく深呼吸してからもう一度扉を開けると
俺の反応に我に返ったのか、マスターは酷くいたたまれない顔をしていて
俺と目が合った瞬間室内のどこかに逃げようとするマスターをとりあえず捕まえ
とりあえず、事情を聞くために寝室に引っ張り込み
今は、ベットの上で向かい合っている
ちなみに、何故かマスターは正座だ

すっかり冷静になり、恥ずかしそうにボソボソと喋るマスターの話を総合すれば

マスターは今日、長年の親友でもあり俺の親父でもあるネイキッド、同じく親友であるキャンベルさん
そして、何故か俺の親友の1人でもあるフランクと一緒に中華街へ飯を食いに行ったそうだ

何故その面子なのかと問いただせば、昼前に親父から

『カズ!中華食いに行くぞ!』

と電話と同時にチャイムがなったらしい
フランクが一緒なのは、仕事の途中で急に中華が食いたくなったため親父の秘書である奴もつき合わされ
キャンベルさんはマスターと同じく、親父の急襲に合ったらしい

さて、親父の急な提案にもかかわらず、長年の友人同士なのと基本的に騒ぐことが好きな面子(1人除く)が集まったおかげでほぼ全員ノリノリでとある有名な中華街へ車を走らせ(もちろん、運転はフランクだ)

そこで、いろんな店を食い歩いたそうだ

「…で、楽しかったのか?」

「あぁ…」

実はその中華街
今度のデートで行こうと密かに計画していて
旨い店まで入念にチェックしていたというのはマスターは知らない

後で、親父にヴァンパイアが出てくる映画を送りつけてやろうと心に誓った

まぁ、そんなこんなで全員腹が膨れた後、せっかく来たんだから少し観光でもしようじゃないかという話になり
ぶらぶらと、4人であちこち歩き回り、様々な食品や民芸品やら食器やらを見てまわったりしたそうだ

「そこで、とても品のいい食器を見つけたんだが…あいにく手持ちがなくてな」

「…なら、今度の休みにでも一緒に買いに行くか?」

「あ〜その〜…」

「?どうしたマスター」

「その食器、ペアなんだが…買ってもいいだろうか?」

もじもじと、恥ずかしそうに俺を見るマスターに、心臓がドキュンと撃ち抜かれるような感覚を覚える

前言撤回
ありがとう親父
後でカロリーメイトとドリトスとマウンテンデュー送ってやろう

「いいに決まってる、明日早いうちに買いに行こう」

「…ありがとう、ソリッド」

「いや…で、それから?」

そうしてぶらぶらしているうちに、キャンベルさんが店頭に飾られたチャイナドレスを見つけ、服屋っぽいからちょっと見てみようとか言い出した
まぁ、全員特に深く考えずにその店に入ったところ

そこは、チャイナドレス専門店だったらしい

何故、ピンポイントでそんな店見つけるんだキャンベルさん

軽く頭を抱えたい気持ちになりながら、マスターの言葉に耳を傾ける

で、半ば悪乗りで様々なチャイナドレスを手にとっては見て、彼女にこんなの着させたいだの言うトークで盛り上がったらしい
と、そこへ
笑顔の店員がやってきて一言

『男性向けサイズもありますよ〜、よかったらご試着どうですか?』

何故、ほぼオッサンの男の集団に試着を進める店員
そして何故ある男性サイズのチャイナ服

そして、その店員の言葉に乗り気になってしまった男3人

じゃんけんで負けた奴が試着するとかいう半ば罰ゲーム的なノリになり
で、負けたマスターが試着することになったらしい

「どうしようかな〜とか言って逃げようと思ったら…すでに背後に店員がチャイナドレス持って凄い笑顔で立っててな」

逃げられなくなったマスターは、大人しく渡されたチャイナドレスを試着したらしい
何故か、そのドレスのサイズはぴったりで
諦めて、カーテンを開けた瞬間

『ぶっ…わははは!に、似合うぞカズ!』

『おう!ぶっ…さすが、金髪美人…ぶくくくっ』

おっさん2人が、大うけした
腹を抱えて笑う親友2人

『あはは、よくお似合いですよ〜』

と、にこやかに笑う店員
もともとこういうノリが嫌いではないマスターは

『うっふん、カズ子でぇっす』

なんてポーズとって、その場は笑いの渦に巻き込まれたらしい

ちなみに、フランクはその間別の店員と相談しながら真剣にチャイナドレスを選んでいたという

『は〜、笑った笑った』

『こんなに笑ったの久々だなぁ』

けらけら笑いながら、目に涙を浮かべる親友達を見て満足したマスターは、試着したチャイナドレスを脱ごうと思ったらしいが

『よくお似合いでしたよ〜、どうですか?ご購入されては!?』

と、かなり真剣な目で店員に言い寄られたらしい

『い…いやぁ…今ちょっと、手持ちがないから…』

と、逃げようとしたところ

『何だ、それくらい買ってやるぞカズ』

と、店員に悪乗りした親父が言い出したらしい

『へ?いやいいって!結構いい値段するし!』

『なぁに、遠慮するなカズ!俺とお前との仲じゃないか!』

『買ってもらえよミラー、ほら、スネークもこういってることだし』

そこに、さらに悪乗りしたキャンベルさんも加わって
3人に迫られる形になったそうだ

チャイナドレス買ってやるってどんな仲だよ、と今すぐ親父に問いただしたい気持ちを抑えつつ、続きをマスターに促した

『買ってもらえばいいじゃないですか…きっと、ソリッドも喜びますよ』

さて、どうやって逃げようか…と考えていると、さっきまでチャイナドレスを選んでいたフランクがにこやかにおっさん達の援護射撃をしたという
その手に持っていた青い生地に銀の刺繍が施された、明らかに男性向けサイズのチャイナドレスを、ご購入ありがとうございます!と笑顔の店員に渡しながら

『…ソリッドが?』

『はい、アイツ最近忙しくて疲れてるみたいですし…その格好で出迎えてやったら喜びますよ』

フランクのその言葉と、大笑いしていた親友2人の反応に
マスターは、疲れて気分が落ち込んでいるであろう俺を笑わせてやろうと思ったらしい

『そっか…なら、買っちゃおうかな?』

俺が笑うならいいかな〜と思ったのと
その場のノリもあって買ってもらうことにしたらしい
ただし、やっぱり買ってもらうのは悪いから、後で金を返すという方向でまとまったらしいが

『お買い上げありがとうございます!』

で、そのままチャイナドレスを包んでもらい
ソリッドがどんな反応したか聞かせろよ〜、と笑う親友2人に見送られ
帰ってきた俺の反応を想像し、ワクワクしながら着替えて玄関先で待ち構え

そして、冒頭の話になるわけだ

「…はぁ〜」

何故マスターがあんなハイテンションで玄関先にいたか、理由はわかった
正直、ため息しか出てこなかった

「すまなかった…いい年したオッサンがみっともないな」

俺のため息を呆れととったらしいマスターは、しょんぼりと肩を落としながらぼそりと呟いた
その言葉に、またため息が漏れる

マスターは、俺と恋人同士であるという自覚が、体の関係を持ち一緒に暮らしている今なおとても薄い
そりゃ確かに、マスターは俺のオムツを換えたことがある…というくらい俺達の間には年齢差があるし
長年の親友の息子であることも手伝って、恋人というよりわが子か年の離れた弟的感覚が抜けないのも仕方がないものだと思うが

いい加減、理解して欲しいものだ
目の前にいる男が、マスターが言ういい年したオッサンを本気で可愛いと思っていて
そのオッサンに、どうしようもないほど欲情できる人間であるということを

今も、ぶっちゃけそのスリットの隙間から覗く日に焼けてない白い太ももに吸い付きたくて仕方ない
マスターが俺が引いたからだと思っている扉を閉めるという行動も、あのまま凝視していたらマスターの話を聞く前に襲い掛かってしまいそうだったから
というか、後3秒閉めるのが遅かったら確実にそうなっていた

さて、話も聞いた
可愛いマスターの姿も堪能した
都合よく、ココはベットの上
可愛い恋人は、何一つ警戒していない

よし、もういいだろう

「マスター…もういいだろ…?」

「そ…ソリッド?」

一応そう言ってから、マスターの唇に軽くキスを落とし、その体をベットの上に押し倒した
俺の言葉と行動にきょとんとした表情をしていたマスターだったが
太ももに当たるしっかりと固くなった俺自身に気づき、ようやく意味を理解したらしい

「ちょ、そ、ソリッド!?」

「せっかくマスターが誘ってくれたんだ…」

「誘ってないっ!第一そんなつもりじゃ…」

「ほう…?ならマスターはどんな意図があってそんな格好してるんだというか俺たち恋人同士だろう?恋人の前でチャイナドレス着るってお誘い以外に何があるっていうんだマスター一体何回セックスしたと思ってるんだいい加減理解してくれ俺はアンタにどうしようもなく欲情できるってこと」

「ノンブレス!?い、いや待ってくれ頼むからっ」

「待たない」

慌てて俺の下から抜け出そうとするマスターの体を押さえつけ、濃厚な口付けを交わす
そしてくったりと大人しくなったマスターの頬に口付けて

耳元で、たっぷりの愛を込めて囁いた



ウォーアイニー



行為の後、どこか拗ねた様子で俺を見つめるマスターにクラリときつつ

「次は、メイド服がいい」

そう言ってやれば、マスターからキツイ一発をもらい
完全に、シーツの中に隠れてしまった

「すまないマスター、機嫌を直してくれ」

「…もう二度とこんな服着るもんか」

完全に拗ねてしまったマスターのご機嫌をとりつつ
おそらく、マスターと似たような目にあっているであろう双子の兄は今頃どうしているのだろうかと、頭の片隅で思った
















ギャグが書きたかった、それだけです
それだけなんです…うん、ごめんなさい

マスターというよりカズですよねこれ
そしてロイが若仕様なのも、フォリキ要素が入ってるのも完全に趣味です

うん、でも書いてて楽しかった!

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