曖昧な存在証明


俺と、このいけ好かない兄弟は、DNAレベルではまったく同じなのだという
ならば、俺が俺であるという証拠は何処にある?
同じ設計図からなる俺たちの違いは何処にある?

俺がここにいるという証拠は
俺がお前ではないということを証拠は

俺たちが別の人間であると証明する方法が
一体何処にあるというのだ

「それで、答えは見つかったのか?」

ソファーに座るいけ好かない兄弟は、俺の問いかけにタバコの火を消してゆっくりと俺を見上げた

「あぁ…」

そんな兄弟の額に、銃口を突きつけた

「どちらかが死ねばいい」

俺たちの存在が曖昧だというのなら
どちらかが死んで1になればいい

確固たる、オリジナルとして

お前が死ねば、残った俺の存在証明となる
俺が死ねば、残ったお前の存在証明となる

とてもシンプルで、かつ有効な方法だ
そうだろう?兄弟

「そう焦るなよ」

銃口を突きつけられているというのに、兄弟は困ったように笑うだけ
その顔に、イライラが募っていく

「俺は、貴様のその笑い方が嫌いだ」

「あぁ」

「貴様からするタバコの臭いも嫌いだ」

「へぇ」

「貴様のその髪も、顔立ちも、身体も、声も、仕草も、全部嫌いだ、大嫌いだ」

「そうか」

「俺は貴様が大嫌いだ、そんなお前と同じだなんてこんな屈辱があるか?」

「ふーん」

「おい、聞いているのか!?」

生返事しかしない兄弟の額に、銃口を押し付ける
冷たい金属に、兄弟の額の骨の感触が伝わってくる

何故だ?
貴様は今、銃を突きつけられているんだぞ
俺が引き金を引けば、貴様は死ぬというのに

何故笑う?
何故恐れない?
何故俺を殺そうとしない?

何故、俺をそんな目で見るんだ!?

「それが、存在証明にはならないか?」

数秒の沈黙
兄弟の口から放たれた言葉は、予想だにしていない言葉だった

「…何?」

「お前は俺を嫌いだと言う。でも、お前はお前自身が嫌いじゃないだろう?」

「当たり前だ」

「なら、俺たちは別の存在だ。俺はお前が嫌う存在、お前はお前が愛する存在…まったく別のものだ」

「はっ、そんなものは詭弁だ兄弟」

馬鹿にしたように鼻で笑ってやると、兄弟はリキッド…とまるで子どもに言い聞かせるような声色で俺の名を呼び
額に突きつけられた銃を握る手を、掴んだ

「な、おいっ」

そのまま、勢いよく引き寄せられる
すっかり油断しきっていた俺は、その勢いに逆らえず兄弟の腕の中に倒れこむ
それと同時に、下からぐえ、という声が聞こえきた

「貴様!何をする!!」

「は…肺が…潰された…くるし…」

「ふん、勢いよく引っ張るからだ」

ゲホゲホと咳き込む兄弟に、少しだけ溜飲の下がる思いがしたが、やはりこのいけ好かない兄弟と密着しているというのはどうにも居心地が悪い

やはり、俺はコイツが嫌いなのだ
そうでなければ、この居心地の悪さをどう説明する

「苦しいなら離したらどうだ?というか離せ馬鹿者」

「リキッド…お前は、お前としてここに存在している」

どうしてこのいけ好かない兄弟は、こうも俺の話を聞こうとしないのか
離せといっているのに、逆に俺の背中に腕を回してきた

「おい、離せと言っているのが聞こえないのか」

「お前は俺が嫌いだし、タバコも吸わない。俺とは違う」

「貴様、人の話を聞けといっている」

「それに、同じ存在ならこうして抱きしめることもできない」

抱きしめるのを赦した覚えはない
そもそも、そんなものが何の証明になるというのだ
今ここに火が放たれて、2人とも焼死体になった暁にはどちらがどちらかわからないだろう
俺が欲しいのは、そういう証明だ
どんな場所に行っても、どんな死に方をしても
俺が俺であるという確固たる証明が欲しいのだと

そう叫んでやりたい
思いつく限りの罵詈雑言を浴びせ、ついでにそのネジの外れた頭をぶん殴ってやりたい

けれど…

「それに…」

俺はお前が好きなんだがなぁ…と困ったように吐かれた言葉

その言葉が、腕のぬくもりが、まったく違うリズムを刻む鼓動が
存在証明にこだわっている自分自身が
何故だか急に馬鹿らしく思えて

「ソリッド・アイボリーが……」

そう呟くだけで、勘弁してやった















ツンデレなリキッドが書きたかっただけなのに、何か違うものになった…

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