最期に観るは愛しき笑顔



「ぐおっ…」

ジャックの刀が、身体に食い込む
衝撃と、一瞬遅れてやってきた鋭い痛み

あぁ…私は負けたのか

ぼんやりと、そんなことを思う

ジャックは、私の渾身の一太刀をかわした
自由になるのは、ジャックだった
私ではなかった
私は、最期まで愛国者達の道具として死ぬのだ

不思議と、悔しさも悲しみも湧き上がってこなかった

代わりに頭の中をよぎったのは、遠い昔の日々

『ソリダス!今日もいっぱい殺したよ!』

血と硝煙の臭いしかしない戦場
血まみれの死体ばかりが転がる大地
その中で無邪気に笑う、幼い子ども

日に輝く金色の髪
無垢な光を宿す青い瞳
その全てが、綺麗だと思った

『よくやったな、ジャック』

その指どおりのよい髪をなでてやると、猫のように目を細める仕草が好きだった
本当に嬉しそうな、戦場には不釣合いな無垢な笑顔が愛しかった

実験動物として生まれ、大人達に囲まれ、玩具として弄ばれてきた私にとって、初めて笑顔を向けてきた
純粋に、私を慕ってくれる唯一の存在

ジャック

あの戦場で
あの場所で
たった1人、私に懐いた子ども
世界でただ1人、私に笑いかけてくれた存在
世界でただ1人、私が愛した存在

考えてみれば、コレも悪くない結末かもしれない
このくだらない世界で
唯一愛した存在によって、命を絶たれる

なかなかに、悪くない

あの愛国者達の描いたシナリオ通りだと思うと、多少腹が立ったが
それでも、名前も知らない奴に病死扱いされそうになったことを思えば、ずっとましな死に方だ

もし神という存在がいるのなら
自由というものを知らず、愛国者達の玩具としてしか生きることのできなかった俺を哀れんでくれたのか
最期に、こんなプレゼントを用意してくれるなんて

そうだ…私は、コレで本当に自由になれるのだ
できるなら、生きて自由になりたかったが…それは過ぎた願いなのかもしれない
これで、私は愛国者達の支配から逃れることができる
他の誰でもない
ただ1人の、人間として

あぁ、私を解放してくれるのがお前なんて
神様は、なんて粋なんだ

こんな、最高の結末を用意してくれるなんて

体中を走る痛みの中、振り返ると
愛しい子どもが、私を見つめていた
私を見る、成長した子どもの瞳は
あの頃と同じ色をしていた

「よくやったな…ジャック…」

私を、このくだらない世界から解放してくれて

褒めてやったというのに、ジャックは泣きそうに顔をゆがめた

泣くな…笑え、ジャック
お前も私も、自由になったんだ
笑ってくれ、ジャック
あの頃と同じように

最期に見るのは、あの頃と同じ
あの、無垢な笑みがいいんだ

私が愛した、あの笑顔が見たいんだ



最期に観るは愛しき笑顔



最期の瞬間観た、あの無垢な笑顔は
私の脳が見せた幻覚なのか
それとも、私の願いを聞き届けたジャックが笑ってくれたのか
私には、知ることができなかった











最後に聴くは愛しき声と対の話
こういう、1つの話を両視点から書くって好きです

ソリダスって、雷電のこと何だかんだで好きだったんじゃないかなっという妄想から生まれた話
結果的には死んでしまったけど、彼が自由になれてることを祈る

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