最後に聴くは愛しき声
「ぐおっ」
刀が、ソリダスの身体に食い込む感覚が手に伝わってくる
あぁ、俺は勝ったのか
ぼんやりと、そんなことを思う
ソリダスは言った、コレはどちらかが自由になる戦いだと
ならば、俺はコレで自由になったのだろうか
ソリダスは、自由になれなかったのか
ふと、頭をよぎったのは忘れたい記憶
『ソリダス!またいっぱい殺したよ!』
血と硝煙の臭いしかしない戦場
血まみれの死体ばかりが転がる大地
その中心に立つ、年上の青年
大地と同じ茶色い髪
深い色をした蒼い瞳
全てが、輝いて見えた
『よくやったな、ジャック』
その大きな手で頭をなでてもらうのが好きだった
褒めてくれる、その静かな声が好きだった
俺を褒めるときの、嬉しそうな顔が大好きだった
親をなくし、孤児だった自分を拾い、育ててくれた
この世界で、たった1人俺の側にいてくれた人
ソリダス
あの場所で
あの戦場で
たった1人、俺の頭を撫でてくれた人
世界でただ1人、俺を褒めてくれた人
世界でただ1人、俺を愛してくれた人
そうさ
人を殺さなければ、殺された
人を殺せば、温かな食事と屋根のついた安全な場所で眠れた
食事の中に火薬を入れられ、麻薬漬けにされた
そんなことは、言い訳でしかない
それなら、沢山殺す必要はなかった
10歳でスモール・ボーイ・ユニットの小隊長になる必要はなかった
他の奴と同じ、ほどほどでよかったのだ
それをしなかったのは、彼が好きだったから
ただ、彼に褒められたい一心で、俺は沢山殺した
誰よりも殺そうと努力した
沢山殺せば、ソリダスは褒めてくれたから
誰よりも殺せば、ソリダスが笑ってくれたから
褒められたかったのだ
笑って欲しかったのだ
他の誰でもない、ソリダスに
その証拠に、俺の本当の両親を殺したのがソリダスだと知っても、憎しみ1つわいてこない
俺を独りにした張本人だというのに
俺があの場所で孤独じゃなかったのは、ソリダスがいたからだ
ソリダスが、俺の側にいてくれたからだ
もしも神という存在がいるならば
沢山の人間を見境なく殺してまわった俺が、よほど嫌いに違いない
俺はソリダスを殺したんだ
ソリダスは、自由になりたかっただけなのに
愛国者達の駒ではなく、1人の人間として生きたかっただけなのに
それは、当然の願いであり権利であったのに
ソリダスの願いを、命を、全てを、俺に奪わせるなんて
神様は、なんて残酷なんだ
こんな、最悪の結末を用意しているなんて
不意に、ソリダスが振り向いた
振り向いたその顔に浮かべていたのは
あの頃と同じ笑み
あの頃、何よりも好きだったソリダスの笑み
「よくやったな…ジャック…」
その静かな声までも、あの頃と同じで
「ソリ…ダ…」
声にならない声が、喉の奥から漏れる
笑え、ジャック
お前も私も、自由になったんだ
風に乗って、ソリダスの声が聞こえた気がした
最後に聴くは愛しき声
最後の瞬間、耳に届いた優しい声は
俺の脳が作り出した幻聴なのか
それとも、ソリダスが放った最期の言葉なのか
今はもう、確かめることもできない
最期に観るは愛しき笑みと対の話
こういう1つの話を両視点から書くのって好きなんです
雷電も、小さい頃ソリダスが好きだったんじゃないかなと言う妄想話
MGSに出てくるみんなが幸せになれればいいのに
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