偉大なる戦友に贈る名前



「チキン・フォックスねぇ…」

穏やかな日差しが降り注ぐ午後
ロイ・キャンベルは先ほど授与された勲章…チキン・フォックスを手の中で弄り回しながら、不服そうに呟いた

「何だ、不服か?」

そんなキャンベルに、俺は少しだけ苦笑した

まぁ、喜ばれるとは思っていなかったが
その名を授けた張本人としては、ここまであからさまに不服そうだとさすがに少し困ってしまう

「あぁ、不服さ!【臆病者】なんて称号を付けられて嬉しい奴なんざいないぜ」

コレで女にもてなくなったらどうしてくれる
と、唇を尖らせるキャンベルに苦笑しか沸いてこない

そういえば、初めて会ったときも、女にもてるために心理学を学んでいると言っていたな
あの頃は必死だったが、今となっては遠い昔の思い出だ
その頃のことと、出逢った頃のコイツを思い出して少しだけ頬が緩む

「お前にぴったりだと思ったんだがなぁ」

「おいおい、そりゃないぜスネーク…ま、確かに俺は勇敢な兵士じゃねぇけどよ」

「勇敢なのがいいとはかぎらないさ」

そう
戦場で真っ先に死ぬのは、勇敢な奴だ
勇敢であればあるほど恐れを知らず、無謀と勇気を履き違えて無駄死にする

戦場で生き残るのは、いつだって臆病者だ
臆病で死を恐れる奴が、恐怖を知っているものだけが生き残るのだ

ただし、腰抜けではいけない
臆病者と腰抜けは混同されがちだが、俺は正反対のものだと思う
腰抜けは己が置かれている状況を理解できず、ただ恐怖にのみ突き動かされ闇雲に逃げ回る
敵に向かうより、逃げるほうがはるかに難しいとも知らず、どうやったら安全に逃げられるかを考えもせず、ただ逃げる
そういう意味では、勇敢と腰抜けは似ているなぁとふと思う

目の前の男は、臆病ではあるが腰抜けではない
死の恐怖を知りながら、それに突き動かされることなく
常に冷静に自分が置かれている状況、敵の状況、リスクなどを正確に把握し、無理だと判断したら、安全に逃げるにはどうしたらいいか考える

腰抜けではなく、臆病である能力

これは簡単そうに見えて、実は一番難しい能力だ
正確な判断を下すには、豊富な実戦経験、ありとあらゆる知識や情報
そして、どんなときにも冷静さを失わない肝っ玉と、柔軟な思考が必要だ

上に立つ人間であればあるほど、臆病であることは重要なスキルになってくる
上に立つ人間が背負うのは、自分の命だけではない
部下の命も、同時に背負うのだ
たとえば、任務は成功しましたが部隊は全滅しました、なんてことじゃ話にならない
兵士は、使い捨ての駒じゃない
兵士が育つには、長い時間と労力がかかる
失ってしまえば、すぐには元に戻らない
FOXHOUNDのような特殊部隊なら、なおさらに

こいつは、そのことをよく知っている

その証拠に、キャンベルが率いた部隊の死傷者数は他の部隊と比べて圧倒的に少ない
任務の成功率は、高いというのに
膨大な情報と経験を元に、兵士達に的確な指示を与え
任務と兵士の命を、その時の状況を基に天秤にかけ
場合によっては、任務を放棄し部隊を守るために引く
部隊が無事ならば、またすぐ任務には戻れると

コレほどまでに臆病で、腰抜けではない男を、俺は他に知らない

それを評価して、チキン・フォックス…
【偉大なる臆病者】という意味で付けたんだが
目の前の男には、いまいち伝わっていないらしい

「いいじゃないか、戦場で生き残るのはいつだって臆病者だ」

「へーへー、アンタと出会ってから無駄に修羅場ばっかりくぐらされてきたんでね」

「不満か?FOXHOUND最高の称号、フォックスは」

「フォックスの前がもっとかっこよけりゃ、大喜びで受け取るさ」

でもまぁ、伝わらなくてもいいのかもしれない
口は軽いが、案外照れ屋なところがある男だ
真実の意味を知ったら
『そんなガラじゃない』
といって辞退してしまいそうだ

「頼りにしているぞ、チキン・フォックス」

「その呼び方はやめてくれんかね、BIGBOSS…ま、偉大なる司令官様のために、せいぜい臆病風に吹かれて生き残るとしますかね」

「はは、頼もしい限りだ。それでこそチキン・フォックスにふさわしい」

「おーおー、アンタより長生きして、褒美に司令官の椅子でももらうとするさ」

半ばやけくそのように笑う男を眺めながら、俺は小さく笑って葉巻に火をつけた



偉大なる戦友へ贈る名前



名前の真実の意味なんて
名をつけた人間だけが知っていればいいのさ
















ロイロイ大好き病が治まらない産物
たまには健全なものを書いてみる

自分の中で、ロイとネイキッドはとても仲良しな気がします
あれです、酒飲み友達みたいな感覚で(どんなだ)
カズとはまた違った仲良しさんです

いえ、ネイロイとかも密かに好きですが(コラ)
ロイの淡い片思い的なのとか
だって、ネイキッドにはカズが(黙れ)

ロイがチキンフォックスの称号持ってたってことを知って一瞬で思い浮かんだ
司令官にまでなっちゃうし、ロイさんは相当優秀な人なんでしょうな

若ロイと大佐はずいぶんと性格的な差がありますが、あれは年取ったのと弟の妻との不倫とかでだいぶ落ち着いたんじゃないかと
カズがマスターになったみたく

ロイ話増やしたいけど、確実に需要ありませんね、はい

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