ささやかな記念日を



目を覚まして窓の外をふと見れば、カーテンの向こう側で溢れんばかりの光が柔らかな若葉を照らしていた
今日もいい天気だ
そんなありふれたことを思いながら体を起こし、小さく伸びをする

「少し寝すぎたな」

机の上の時計の短針は、すでに10を過ぎている
こんな時間まで起きないのは、我ながら珍しい
そう考えて、ふと気が付いた
普段は誰かしらが騒いでいる家の中が、随分と静かだ
そういえば、あのうるさい双子も鬱陶しい父親も、今日は用事があると言っていた
休日の起床は双子が喧嘩をする物音か、はたまた親父が双子に絡んでウザがられている声かだ
今日はそのどちらもなかったせいで、寝過ごしてしまったらしい
そんなことをつらつらと考えていると、ぐぅと腹の虫が音を立てた

「食事でも作るか」

あの家族が私の分の朝食を作って出掛けるわけがない
面倒だが、自分で作るしかない
料理は得意ではないが、全く出来ないわけじゃない
ベーコンエッグくらいなら、私も作れる
それにパンとコーヒーでもあれば、立派な朝食だ

キッチンへと足を運べば、案の定、朝食などというものが欠片も見当たらない
わかってはいたが、自然と漏れるため息を抑えることなく、コーヒーを入れている瓶を手に取る
目を覚ますには、やはりコーヒーが手っ取り早い
瓶のふたを開けるとコーヒーのいい匂いがふわりと漂ってきて、自然と頬が緩む
手軽なインスタントも悪くないが、やはりこっちの方が好みだ
その香りだけで、頭がスッキリするような気がする
さて湯を沸かそうとポットに水を入れようとして

「…あぁ、そういえば今日は4月30日か」

ふと、あることを思い出した
思いついたままポケットに入れておいた携帯を取りだし、メール画面を開く
目的の人物…ジャックからのメールは大抵上のほうにある
それに返信する形で、カチカチとボタンを押す

今日は何の日だ?

それだけを本文に打ち込み、送信ボタンを押す

「さて、と…」

送信完了画面を確認してから、パチンと画面を閉じて携帯をカウンターの上に置いておく
そして今度こそ湯を沸かそうと、蛇口を捻った

「いただきます」

まだ湯気の立つ朝食を前に、私は小さく手を合わせた
ベーコンエッグにパン、それからコーヒー
上出来とは言いがたいが、朝食には十分だ
ふわふわといい香りを振り撒いているコーヒーを口に含みながら、机の上の携帯をチラリと見る
ジャックからの返信は、まだない
普段は5分と待たず返してくるジャックにしては珍しい
まぁ、大方今日が何の日か忘れていているのだろう
今日は私の誕生日でもジャックの誕生日でも、ましてや付き合った記念日だとかそういうわけでもない
というか、私もジャックが覚えているとは思っていない
おそらく意味など大してない、記念日と呼べるかすら怪しい日
別に覚えていなかったからといって怒るつもりもないし、私もあぁそういえば…という感覚で思い出しただけだ

なら、何故あんなメールを送ったかと言えば、答えは簡単だ
楽しいからだ
あの単純でヘタレなジャックのことだ
元々記念日に頓着しない自覚のある私から、あんな風に記念日を臭わせるようなメールが来れば、それはもう慌てるだろう
今頃必死になって思い出そうとしているだろうし、何か手がかりはないかと部屋中ひっくり返しているかもしれない
これだけ返信が遅いのなら、それをどうやって言い訳しようかと考えている可能性もある
その姿を想像するのが、楽しくて仕方ない
そしてそういう場合、ジャックは大抵私が思ったとおりの行動をしている
それが余計に、楽しさを煽るのだ

「…今日は何の日だ?」

楽しさに任せるまま、先ほど送ったメールと同じ物を、もう一度送る
表示される送信完了画面に、口元が緩んでいく
今頃、ジャックにあのメールは届いているだろう
それを開いたジャックは、どんな顔をしているのだろう
慌てきって汗でもかいているだろうか、それとも真っ青になっているだろうか
もしかしたら慌てすぎて何かに躓いて転んでいるかもしれない
それを目の前で見るのもいいが
こうして想像するのも、中々楽しい

「さて、どんな反応を見せてくれる?ジャック」

もうすぐ返ってくるであろうジャックの反応を想像しながら
私は、パンを一口齧った

『そ、ソリダスごめん!!今日は何の日だ!!?』

ちょうど朝食を終えた頃、タイミングよくジャックから電話がかかってきた
予想より少し遅かったが、受話器越しから聞こえる声が若干泣きそうだったから、そこには目を瞑ってやり

「全く、覚えていないのか…今日は…」

十分楽しませてもらった礼に、種明かしをしてやれば

『す、すぐ行くから!!』

さっきまで泣きそうだった声が一気に明るくなり、別に来いとも言っていないのにうちに来ると言って電話を切った
まぁ、今日は誰もいないしいいかと思いながら、ジャックのコーヒーを入れるため再びキッチンに立った

それから20分とたたずにやってきたジャックの額と鼻先が、どこかに打ちつけたように真っ赤になっていて
予想通りのその姿に、堪えきれず噴出した



















Q.4月30日は何の日だ?
A.雷電とソリダスの記念日(MGS2)
という確実に間違った認識による、突発短文

何と言うか、ほのぼのしてる2人が書きたかったはずなのに、雷電をからかうソリダスさんの話に…
ソリダスによる雷電苛めは日常です(待て)

いろいろすみませんでしたっ

- 1 -


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -