埋め合わせな1日の話・1



…ソリダスは、まだ来ないだろうか

腕時計をチラリと見れば、待ち合わせまで後5.分ほど
いつものソリダスなら、そろそろやってくるはずと、そわそわと落ち着き泣く辺りを見回す

「すまんジャック、待ったか?」

いつものように、待ち合わせの5分前に姿を現し
いつもとは違うことを口にするソリダスに

「い、いや!俺も今きたとこだ!」

俺は慌てて立ち上がり、ソリダスに駆け寄った
本当は、今日のデートが楽しみすぎるのと、前回の教訓から30分前から来てソリダスを待っていた
俺は彼の兄弟のようにタバコは吸わないが、もし吸っていたら足元に吸殻の山が出来ていたに違いない
タバコ吸わなくてよかった…と、比較的どうでもいいことが頭の中を駆け巡った

「そうか?そのわりには随分とそわそわしていたようだが?」

だが、ソリダスは俺のことなんかお見通しらしい
ニヤニヤとどこかからかうような笑みを浮かべて俺の顔を覗き込むソリダスに、自然と頬が熱くなる

「ソリダスに会えるんだ、それくらいする」

赤くなる頬をどうにか誤魔化そうとそう口にし、俺は、恐る恐るソリダスの手を取る
ソリダスは一瞬怪訝そうに俺のほうを見たが
いつものように振り払うわけでもなく、大人しくされるがままになっている
そのことに軽い感動を覚えながら、俺は目的地に向かってソリダスの手を引いて歩き出した

ソリダスが提案した、埋め合わせ
次のデートは、俺の好きにしてもいい
どこに連れて行こうが、何をしようが、すべて俺の自由
絶対に拒否しないし、帰ったりもしないと約束してくれた

あまりの嬉しさに、彼の兄弟達に会った時に報告したところ
まるで哀れなモノを見るような目で見られたが、そんなことはどうでもいい

いつもはソリダスが気に入らなければすぐ帰ってしまうし、ソリダスが行きたい場所ばかりに行っている
俺は、ソリダスといられるだけで幸せだし、楽しそうなソリダスを見るのは楽しい
だけど、俺だって行きたい所も理想のデートコースだってある
いつも、ソリダスに速攻却下されてばかりだけど

けど、今日は俺が全部決めていいのだ
これを嬉しいといわず、何と言えばいいのか

「で、今日はどこに行くんだ?」

「まずは、映画でも見に行かないか?」

いつもは出来ない会話に、じぃんと胸の中が熱くなる
いつもはどこに行く?じゃなく、あそこに行くぞ、と決定形ばかりだ
なんか、こういう会話恋人っぽくていいな…
いや、俺とソリダスは恋人だけど、デート中にこういう会話とかしたことなかったから、実は憧れていた

でも、ソリダスがつまらないのはダメだ
俺ばかりが楽しくて、ソリダスが楽しくなければデートの意味がない
俺が計画を立てていいなら、ソリダスにも楽しめるものがいい
だから、埋め合わせの提案があったから一生懸命考えた

映画も、流行の恋愛映画の中でもソリダスが好きそうなのを選んで
昼食のカフェも、ケーキが美味しいと評判の場所にした
ソリダスが以前行ってみたいといっていた、植物園もコースに組み込んだ

最初はどこか警戒したような表情をしていたソリダスだったが
映画で少しだけ涙ぐんだり、デザートのケーキに舌鼓を打ったり、植物園で花を楽しんでいたりする姿は、とても楽しそうで
ソリダスが楽しそうなのが、凄く嬉しくて
何を言っても、ソリダスが苦笑いで許してくれるのをいいことに、いつもよりわがままを言ってみたり
いつもと違う新鮮な感じが、楽しくて

時間は、あっという間に過ぎていった

「ジャック、これからどうするんだ?」

ソリダスは、俺をチラリと見ながら問いかける

「そうだな…」

このまま帰ってもいいけど、もう少しだけ一緒にいたい
けど、ここまでしか計画は立てていない

さて、どうしようかなと考えていると
ふと、目の前にある
この前この辺りに来たときにはなかった、ラブホテルが目に入った

…いやいやいや
今日の予定は全部俺が決めていいけど、ソリダスに何をしても断らないという約束をもらってるけど
あそこは、怒られるに決まってる
ソリダス、あまりホテルとか好きじゃないし
でも、たまには変わった場所とか行ってみたいし
でも、せっかくここまでソリダスも楽しんでくれてたみたいなのに、最後の最後で機嫌を損ねるのも…

1人、心の中で葛藤していると

「ジャック…」

あまりにホテルをガン見していたせいか、ソリダスが怪訝そうな声で俺の名前を呼ぶ
その声に、あそこ行きたいのか?という問いかけの意味も含まれていそうで…というか、絶対含まれてる

「あ…いや…」

正直、行きたい
でも、ソリダスが嫌がることはしたくないし…
曖昧に答える俺に、ソリダスはわざとらしくため息を吐いた
それに、呆れられたかと一気に緊張が走る

「今日はジャックの好きにしていいと言わなかったか?」

だが、続くソリダスの言葉は予想外のもので
思わず、ソリダスの顔を凝視してしまった

「どうした、行きたくないのか?」

「あ、いや…行きたい、けど…」

俺の視線を受けたソリダスが、あまりにもさらっと言うものだから、俺もつい本音が漏れてしまう
俺の言葉に、ソリダスはふわりと微笑み

「なら、決まりだな」

そういって俺の手を取り、すたすたと歩き出した
俺も慌てて、ソリダスに手を引かれるままに歩く
ちらりとその横顔を伺えば、いつになく上機嫌で小さく笑っている
どうやら、今日は気分がいいらしい

…ソリダスが珍しく乗り気だ
嬉しいけど、ちょっと怖いかもしれない…

少しの不安と、それ以上の期待を胸に
俺は大人しく、ソリダスの後ろをついて歩いた




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