途方にくれた昼過ぎの話



「ん…」

ぼんやりと、意識が覚醒する
もうすでに明るい天井をぼんやりと眺め
仕掛けたはずの目覚ましの音がしないことに、まだ眠気でぼんやりとした頭で不思議に思った

「今、何時…」

枕元の目覚まし時計を手探りで探し出し
まだぼやける視界で、表示された時間を確認し

ぶわっと、一気に汗が噴出し
一瞬で、眠気がどこかへ飛んでいった

「ね…寝坊した!!!!!」

ガバリと焦りのまま起き上がり、ズボンを脱ぎかけて裾に引っかかって派手にこけた
けど、痛みに悶絶している時間すら惜しい

今日は、ソリダスとデートの約束がある
女王様でマイペースなソリダスは、待ち合わせに遅刻もしないが相手の遅刻も許さない
1分の遅刻でも、機嫌が悪くなる
そして、5分以上遅刻しようものなら3日は口を聞いてくれない

そして、最悪なことに
前回のデートで、俺は遅刻してしまった
3分くらいだったから、まだ待っていてくれたが…
待ち合わせ場所にいたソリダスの機嫌は、そりゃもう悪かった
なんとか謝り倒して許してもらったが
2回連続で遅刻なんかしたら、今度こそ許してもらえない
3日どころか、1ヵ月は口をきいてもらえないかもしれない

笑顔でキレるソリダスの様子がありありと想像できて
俺は大慌てで適当な服を着込み、鞄を引っつかんで家を出た

幸いなことに、時間的にはギリギリ
走って駅に行けば、どうにか待ち合わせに間に合う電車に間に合う…!

全速力で走って、駅を目指す
途中、何度かの信号無視を繰り返し
駅について腕時計で時間を確認すれば、なんとかギリギリ間に合いそうだ

はぁ、と安堵のため息を吐いて、急いで改札口へ向かう
その間に、鞄の中に手を突っ込んで定期を探す
が、どれだけ引っ掻き回しても定期の手触りがない

「ちょ、嘘だろ!?」

慌てて近くのベンチで鞄をさかさまにひっくり返す
出てきた中身をどれだけ確認しても、定期が見あたらない
それどころか、財布すらない

鞄をよく見ると、いつも使ってるものじゃなくて
クローゼットの整理をしたときたまたま出てきた、あまり使わない鞄だった

「マジかよ!?」

慌ててポケットや上着を探ってみるものの、小銭は入っていない
今日のデートの待ち合わせ先は、電車で数駅先
走っていくには、あまりにも遠すぎる

「ちくしょぉぉぉぉ!!!!!」

ぶちまけた中身を鞄に詰め込みなおし、さっきまで走ってきた道を必死で逆走する
確実に、遅刻コースだ
軽く絶望しながら、それでもソリダスに連絡を取ろうと携帯を取り出す
前方からきた自転車をかわしながら、メールを打とうと画面を開こうとした瞬間

―ピピ、ピピ、ピピ…

無情にも鳴り響く、電子音
そして、画面に表示される
【充電してください】
の文字

「え!?ちょ、嘘だろ!!?」

慌てて携帯の画面に叫ぶものの
無情にも、電子音を響かせて携帯の画面が真っ暗に落ちる

「ど、どうする!?」

その光景に頭が真っ白になったが、とにかく走る
どうにか家に着き、握り締めていた鞄を放り投げて、いつもの鞄の中に財布と定期があるのを確認し引っつかんでまた飛び出した

「うえっ…はぁ、はぁ…」

口が渇き、喉の奥から血の味がせりあがってくるが、それを気にする余裕はない

ヤバイヤバイヤバイ
もう、間違いなく待ち合わせには間に合わない
何て言い訳すればいいんだ!?

グルグルと必死で言い訳を考えながら、最寄の駅に本日二度目の到着
ちらりと電光掲示板を見れば、ちょうど目的地行きの電車が今にも出発する時間

「ま、間に合え!!!」

改札口にぶつからん勢いで飛び込み、階段を2段飛ばしに駆け上がる
その先に、扉の開いている目的の電車が見える

あれに乗れば、間に合わなくても頑張ればソリダスが帰る前に待ち合わせ場所にいけるかも…!!
そう思い、必死に走る

「ま、待って…!」

けど、階段を上りきった瞬間
無情にも、目の前で扉が閉まり
電車がゆっくりと動き出す

その光景に、本日二度目の頭が真っ白状態

ぎぎぎ…と、音がしそうな勢いで電光掲示板を見れば
次の電車は、10分後だった

終わった…何もかも終わった…

そんな言葉が、頭の中をよぎる

せ、せめてソリダスに連絡を取らないと…
そう、混乱する頭で考える

遅刻のことで怒らせてしまうのはもう決定だが
さらに連絡もなく遅れたとなれば、火に油を注ぐ勢いで怒らせてしまう

1ヶ月の無視じゃ、すまない事態になるかもしれない

大きく深呼吸をして、どうにか自分を落ち着かせる
考えろ…ここは、駅だ。駅は公共施設だ
公共施設には、今でもどこかに公衆電話があるはずだ

そう思い至り、あたりを見渡すと
ちょうどよく、売店の横に公衆電話があるのが目に入った

「よ、よしっ!」

ホッとしながら、公衆電話の受話器をとり、財布を開く
が、小銭がない
公衆電話に、札は使えない、テレホンカードなんて持ってない

「…すみません、これください」

仕方なく、すぐ隣の売店でコーヒーを買って小銭を作る
コーヒーを鞄に突っ込み、受け取った小銭をそのまま公衆電話に入れる

通話可能になった音が聞こえ、さて、ソリダスに電話しよう…
そこまで思って、気がついた

「やばい…ソリダスの番号、覚えてない…」

ソリダスのメルアドは、覚えている
聞き出すのにものすごく苦労したおかげで、一言一句間違わずに言える自信がある
だが、電話番号はあっさり教えてもらえた上普段短縮ボタンや履歴からかけるため覚えていない

「何で番号覚えてないんだ俺!!」

思わず、そう叫んで売店のおばちゃんから不審な目で見られたが気にしてなんかいられない

大幅な遅刻は確実
その上、ソリダスに連絡を取ることもできない

近くで携帯を弄るまったく知らないおっさんに、携帯を貸してくれとすら言いたくなったが
知らないアドレスからメールが来れば、ソリダスの性格上開くこともなく削除するだろうことが予想できて絶望的な気持ちになる

そうこうしているうちに
時計の針は無情にも、待ち合わせ時間を指した

「…とにかく、行くしかない…」

もう、逃げ出してしまいたい気持ちで一杯になるが
待ち合わせ場所にすら行かなかったことがばれれば、無視どころか別れ話にまで発展するかもしれない

呆然としていると、目的地行きの電車がやってきて
とりあえず、それに乗り込む

『本日は、当電車をご利用いただき…』

いつもは気にならない車掌の声も、今日ばかりは俺の神経を逆なでする
まるで、電車の速度がカメの歩みのように遅く感じて
焦りから、足を揺らしてしまい隣の男にものすごく迷惑そうな顔で見られた

怒って帰ってしまい、待ち合わせ場所にいない確率のほうが高いが、それでも万が一いたときのための言い訳を必死で考える
そうでもしないと、電車で暴れだしてしまいそうだった

まるで、永遠にも感じられる時間がたち
電車が、目的の駅に着く

扉が開いた瞬間飛び出し、階段を3段飛ばしに駆け下りて改札口を抜ける
待ち合わせ場所は、駅のすぐ近くの公園の噴水
そこはいつもあまり人がいないから、いるならすぐわかるだろう

そう思いながら、公園の前まで行くと

「…何だ、これ…」

いつもは閑散としている公園が、人で溢れかえっていた

その様子に混乱しながら、ダラダラと汗が出てくる
ソリダスは、人ごみが大嫌いだ
自分が行きたい場所に行くためだったりするときは不機嫌そうにしながらも我慢するけど、俺が人ごみを連れまわせば一瞬で帰ろうとする

そんな中で、ソリダスを待たせて
オマケに、連絡もなく遅刻して

今度ばかりは、本当に捨てられるかもしれない

「そ、ソリダス!?」

慌てて、人ごみを掻き分けてソリダスを探す
背が高く、見つけやすいはずなのだが、あまりの人手に見つけられる気がしない
もしかしたら、もう帰っているのかもしれない

そう、絶望に目の前が真っ暗になろうとした瞬間

「あ〜ヤバイ、携帯の電池切れそう…」

「大丈夫?充電器貸そうか?」

そう、仲の良さそうな女の人の会話が聞こえてきて
ようやく、思いついた

「そうだ!充電器!!」

コンビニに行けば、簡易充電器が売ってるはずだ!!

そのことに気づかせてくれた顔も名前も知らない女の人が天使に、いや神に思えた
辺りを見回せば、ちょうどすぐ側にコンビにが見えた

「すみません!携帯の充電器ありますか!!?」

大慌てでコンビニに駆け込んで、レジの女の子にそう尋ねる
あまりの勢いに若干引き気味の女の子が、充電器のありかを教えてくれる
その中のひとつを引っつかんで、叩きつける勢いでレジに差し出す
レジを通し、おつりをもらうまでの時間すらもどかしい

「袋、ご利用ですか?」

いらないから早くしてくれ!
そう言いたいのを必死で堪え、いりませんとだけ伝え
おつりとレシートを引っつかんで、コンビニを出る

包装を破り捨てて、充電器を携帯に差し込む
充電中を示す赤いランプが点灯し、そのことに叫びだしたくなりながら電源ボタンを押す
ゆっくりと画面が明るくなり、携帯がようやく起動を始める

「早く、早く、早く!」

堪えきれずそう呟いてしまう
隣を通り過ぎる、サラリーマン風の男が俺を不審そうに見つめてくるが気にしちゃいられない

携帯が、ようやく待ち受け画面を映し
電話しないと!と思いソリダスの携帯番号を呼び出した瞬間
携帯が、メールの受信を始める

「…何だ?」

今すぐ電話したい気持ちを、もしかしたらソリダスかも…という気持ちで押さえつけ、受信を待つ

受け取ったメールの差出人は、ソリダス
時間は、ちょうど携帯の充電が切れた直後

何だろう?そう思いメールを開くと

【すまんジャック、急用ができた
 今日は行けそうにない
 後日、埋め合わせはする】

その文章に、ガクリと足から力が抜けてその場に座り込んでしまった

「は…ははは…」

口から漏れるのは、乾いた笑いだけ

…一体、何のためにここまで来た
家から駅まで2往復して
公衆電話で連絡とろうとして、売店で飲まないコーヒー買って
電車の中で言い訳必死に考えて
人ごみの中ソリダス探して
どうにか連絡取ろうと簡易充電器まで買って

一体、何のためにここまで来た…!

ソリダスは、悪くない
自分が寝坊してもう面倒くさくなった以外、滅多なことではドタキャンしないソリダスだ
本当に、急にどうしてもしなければならない用事ができたんだろう
ちゃんと、埋め合わせはするといってくれている

悪いのは、俺なのだ
大事なデートなのに寝坊して
慌てて出たら鞄を間違えて
携帯の充電忘れてて
ソリダスの番号覚えてなくて
簡易充電器の存在をすっかり忘れていた俺だ

でも、やり場のない悲しみと虚しさと怒りがこみ上げてくる

「本当に…何のために、ここまで来たっ」

拳を握り締め、ぼそりとそう呟いてみてもちっとも気持ちは晴れない

「ままー、あのおにいちゃん、じめんにすわってなにかいってるよ〜?」

「しっ…見ちゃいけません」

逆に、親子連れに完全に不審者を見る目で見られ虚しさが増してくる

「本当に…何のために…」

呆然と、空を見上げれば
そこは俺の心とは裏腹に、憎らしいほどに晴れ渡っていた

あぁ…今日のことで、1つだけ学んだことがある

「携帯の充電…これからは、毎日しよう…」



途方にくれた昼過ぎの話



そして後日

「この間は悪かった、ジャック…怒っているか?」

「…別に、怒っていない…」

「そう拗ねるな…埋め合わせはするといっただろう?」

未だにそのことを引きずって凹んでいた俺を、ドタキャンのことで拗ねていると勘違いしたソリダスから
埋め合わせという名の、とても甘いご奉仕をしてもらえることを
その時、俺はまだ知らなかった
















エロケージを溜めるためにギャグ祭り開催中(意味不)
久しぶりに雷斜を更新してみた
だって、実は好きCPなんですよ雷斜

ト/ルコ行/進曲〜オ/ワタを聴いて、これなんて雷斜ソング?と思って勢いで書いた
曲の内容、まんまですすみません

家に戻った時点で充電器差し込んでメール打てばよかったじゃんん
というツッコミは正しいです
ただ、雷電パニック起こしてるんで気付いていません

雷電がどんどんと不憫になる…

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