【ありがとう】



男同士で司令と副司令であれば対立は日常茶飯事だ。
些細なことからMSFの運営方針、果てはプライベートなことまで。
そこへさらに肉体関係的なことまで入ると喧嘩のタネにはことかかない。
「お前、借りにも副司令だろうが?」
「……それが?」
「だったら、あんなことがあれば隊内の空気が悪くなることはお前が一番よく分かってるはずじゃないか」
MSFのサブリーダーでそのうえ男前。これで女にモテないわけがないのは分かるが……。
「第一こういうのはお前が一番嫌っていただろう?」
カズは腕を組んで黙りこくったまま他所を見ている。
目を合わせようと回りこんでみても目を反らされる。
第一俺だってこんなのは苦手なんだ!とスネークは叫びだしたくなる。
殴り合いの喧嘩ならいい。
これでカズに悪いところがあると分かるなら一発殴って粛清して終わりにだって出来る。
しかし今回は何も語ってくれない。
これでは手の出しようもない。
殴るのだって好きでやってるわけじゃない。
好意を抱いている相手を無駄に傷つけたくはないし、己の拳だって痛い。
「カズ……」



事の起こりは、スネークの留守中に起こった…らしい。
他の兵士たちから聞いたところによるとある女兵士が「副司令と寝た」と言い始め、結局それは嘘だったらしいのだがそれをきっかけに女関係がボロボロと出てきてしまい女同士の喧嘩になったとか。
しかもそれを当事者である筈のカズが一切関わらなかったと言うのだ。
普段なら関係ない喧嘩でも止めに入るというのに。
「悪かった。今後はこういうことが起こらないようにする。……それでいいだろ?」
それだけいうと自室に篭ってしまった。
誰に見られているわけでもないが、スネークはやれやれどうしたものかと肩をすくめた。
一度意固地になるとなかなかなだめるのは大変だ。
有無を言わさず「何やってる!」と殴ってしまえばよかったのだろうか?
そのほうが他の隊士たちにも示しがついた?
夕飯の時刻になっても食堂には現れず件の女性兵士に「私のせいだ」と泣きつかれた。
他の兵士たちもカズのらしからぬ行動に不安が隠せないようだ。
やはりここは俺がなんとかするしかないのか、と
夕食後カズの部屋を訪ねた。
「カズ?」
コンコンと何度かノックをしてみるが返事がない。
試しにノブを回してみると鍵はかかっていないようだ。
ドアを開けると中は薄暗い。
寝ているのか?とベッドを見てもいない。
どこだ?と部屋を見渡すとデスクの影から脚が見える。
「カズ!」
慌ててデスクへ駆け寄るとカズが倒れていた。
「おい!どうした!」
何が原因で倒れているのか分からないので下手に動かせない。
万が一脳が原因だったり頭部を強打していたら危険だ。
触れると異様に冷たい。
しかし脈は遅いもののしっかりしている。
すぐに医療班を呼び医務室へと運んだ。
倒れていた原因は貧血。
「アホか!」
「アホってなんだよ!」
起き上がれないため医務室のベッドの中からカズが反論する。
「なんで調子の悪いことを言わない」
「格好悪いだろ」
「日本人の美徳だかなんだか知らんが、隠すことがいいことだとは俺は思わん!」
「…………」
「結局こうして人に迷惑かけるだろうが……!」
「……っ……お、俺だって好きで迷惑かけたんじゃないっ!かけたく……ないから……っ……」
感極まったのかぎゅっと閉じた目から大粒の涙がポロリとこぼれる


それに対しスネークもどうしていいか分からなくなり思わず怒鳴ってしまった。
「もう好きにしろ!」
医務室のドアを思い切り閉めて廊下に出たとたんに後悔する。
弱っている相手にあの態度はよくなかった。
しかしどうにも冷静にあんな状態のカズを見ていられなかった。
カズが見栄はりで体面を気にする性質なのは知っていたし、このところオーバーワークなのも知っていた。
本当なら自分が配慮をしてやらなければいけなかった。
お互いにフォローしあってこその司令と副司令じゃないのか。
そのまま廊下に立ち尽くしていると医療班の隊士が出てきた。
「あ、ボス……」
「カズはどうした?」
「あ、はい……少し取り乱されておりましたし……起き上がろうとするので安定剤を打ちました」
「……そうか、悪かったな。そうだ、これから定期的に……カズを診てやってくれないか」
「そうですね。私もそのほうがいいと思いました。でもそれはボスも同じことですよ?TOPのお二人に倒れられては立ち行きませんから。副司令に定期的な健康診断を行うならボスも行ってください」
「そりゃそうだ。……わかった。了解した」


翌日の朝、今度はスネークの部屋をカズが訪ねた。
「その……ボス。すまなかった」
俯きがちに、しかし視線がチラチラとスネークを見上げる。
「……体調はもういいのか?」
「あ、あぁ。点滴打たれたし……薬で強制的に眠らされたし……今は問題ない」
「そうか」
「それで……その……定期的に健康診断って……」
「これは命令だ。そのかわり俺も受ける」
「あ、あぁ。別に否やはない」
「ならいい。……昨日は俺も悪かったな。大人気なかった」
「い、いや。ボスの言ったことは正論だ。仕事に支障をきたす前に改善すべきだった。なんとかなると自分の体力を過信していた。なんで……あんなに意地になってしまったのか……自分でもわからない」
「…………」
「………………」
しばらくお互いに沈黙してしまう。
「本当は……」
「え?」
「本当は……悔しかったんだ。側にいなかったとはいえ気付いてやれなかった。そしてお前も俺を頼ってくれなかった」
「ボス……」
「俺たちはパートナーだろう?俺を信じられないか?」
カズは首を横に振る。
「カズ……」
名前を呼ぶと恐る恐るといった態で顔をあげる。
セットされた柔らかそうな髪から前髪が一房落ちる。
それをかきあげてやるとサングラスの隙間から目が合った。
「ごめん」
苦笑してそのままカズの髪をかき混ぜる。
「あっ…」とカズが小さく声を上げて止めようとしたが大人しくされるにまかせていた。
すっかりカズの髪型がぐしゃぐしゃになってから解放してやる。
「あ〜あ……もう……」
必死に手櫛でカズがそれを直す。
しかし一度崩れているので何本か前髪がどうしても落ちる。
「なぁ……?」
「え?」
「なんで前髪あげるんだ?」
「え?なんでって……似合わないかな?」
「いや、そんなことはないが……面倒じゃないか?毎朝毎朝……」
「お、……」
「ん?」
「幼く……なるから……ひげはまばらにしか生えないし似合わないって言われし……」
あぁそういえば。カズは自分の容姿にひどくコンプレックスを持っていたのだ。
サングラスもそれを隠すため。
ではこの髪型もそれを隠すため?
思わず衝動的に抱きしめたくなった。
「うわぁっ!ぼ、ボスっ!」
そしてせっかく直した髪をまたグリグリとかき回す。
頭半分下から「やめろバカ!」と文句が聞こえるが無視してグリグリとかき回し続けた。
すっかり大人しくなったので調子に乗る。
ぐしゃぐしゃになった髪の毛を引っ張ってみたりまとめてみたり
「ちょんまげってこんなか?」などと遊んでみたり。
自分のゴワゴワの髪の毛と違ってテディベアでも撫でている様な感触で気持ちがいい。
しかしあまりにカズが静かなのでおや?と顔を覗いてみた。
無防備に目を閉じている。撫でられている方も気持ちよかったようだ。
手が止まったことに気付きハッと目を開いたカズと再び目が合う。
その途端一気に顔が赤く染まった。
「やっ、これっ……ちがっ……」
動揺してどもる口を軽く指で押さえた。
そして軽く口付ける。
「たまには今みたいに素直に甘えろ。俺に見栄はったって今さらだぞ?」
「今更って……くそっ。……どうせ……」
いつもは饒舌な男だがさすがに言い返せないらしい。
いつもは口では負けるのでいい気分だ。
「カズ……」
「ん?」
「ありがとうな……」
「な、なんだよ。急に」
「お前がいるから今がある。お前と会えてよかったと俺は思うよ」
「ぼ、スネーク……俺も……あんたと会えたことを今は感謝している」
「これからもよろしくな?」
「俺こそ……」
後は深くその口を塞いでしまったので聞けなかったが意味は伝わったので問題ない。











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素敵過ぎです!カズ可愛すぎです!!
カズが可愛ぃぃぃぃぃ!!!!!

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