崩壊日常的狂愛



俺と親父の間に当たり前に存在していたはずの、親子という関係
それが壊れたのがいつかなんて、もう覚えていない
初めて犯されたあの日だったような気もするし、親父が軍を退役して家にいるようになってからかもしれない
もしかしたら、最初からそんなもの存在していなかったのかもしれない
そんなことを、最近ふとした瞬間に考えてしまう

「遅かったな、リキッド」

もう日も高くなった休日
寝すぎてぼんやりとする頭と痛む体を引きずりながら下へ降りてみれば、親父が葉巻をふかしながら、新聞を読んでいた
どこか楽しげに笑う親父に、おざなりな挨拶を返して冷蔵庫へと向かう
よく冷えた牛乳を胃に流し込み、徐々に覚醒していく意識が、小さな違和感を訴えた

「…あいつらは?」

いつもなら、どこかしらからする兄弟たちの声が聞こえない
ソリッドもソリダスも物静かな方ではあるが、それでも声が聞こえないのはおかしい
俺が目を覚ましたときも、両隣にある兄弟たちの部屋には人がいる気配はなかったはずだ
視界の端で葉巻を灰皿に押し付けている親父に問いかければ

「あぁ、あいつらなら出掛けているぞ。今日は遅くなるそうだ」

ぱさり、と新聞を置く音が耳に届くと同時に、どこかのん気な声がそう答えた

兄弟たちは、出掛けている
今日は来客の予定はない

家に、親父と2人きり

その状況を上手く認識する前に、親父の手が俺に伸びてきて
あっというまに、床にうつ伏せに押し倒された

「まだまだ甘いな、リキッド」

「ち、くしょうっ」

慌てて抵抗しようと体を捩るが、しっかりと固定された体は思い通りには動かない
背中から聞こえる親父の得意げな声に、俺は奥歯を思い切りかみ締めた
顔は見えないが、得意げに笑っているのが容易に想像できて、盛大に舌打ちしてやる
それなりに年を食っている親父より、年の若い俺のほうが力はあるはずなのに、どれだけ暴れても親父の拘束は解けやしない
さすがは腐っても元軍人
格闘技を齧ったくらいじゃ、勝てやしない

「いい加減諦めたらどうだ?リキッド」

くく、と喉で笑う気配と共に、親父の低くて甘い声が鼓膜を揺らす
ぞわり、と背筋を這い上がる震えを押さえ込んで、首だけで後ろを振り向いて親父を睨みつける
想像していた通りの親父の顔に、悔しさと苛立ちが湧き上がってきた

「誰が!」

「全く強情だな…誰に似たんだか」

精一杯睨みつける俺に親父はわざとらしくため息を吐き、器用に片手で俺を押さえつけ、もう片方の手で俺のズボンのベルトを外しにかかる

「っ…やめろ、離せっ」

「諦めろ、誰も助けに来ない」

にやにやと、心底楽しそうにそう囁く親父に、もう一度舌打ちをふっかける
ソリッドもソリダスも出掛けていて、夕方までは帰らない
この家には今、俺と親父の2人だけ
親父の言うとおり、誰も助けには来ないだろう
だがそれも毎度のことだ、元々助けなんか期待していない

「くっ…」

ベルトが外され、チャックを下ろされたズボンの隙間から入ってきた親父の手が尻を撫でる
明らかに性的な意味しか持たないその指先にぞくりと肌が粟立ち、その感覚を誤魔化すために唇をかみ締めた

初めて犯されたのは、親父が軍を辞めてしばらくたった頃だった
あの日のことは、正直よく覚えていない
痛くて苦しくて、何が起きたのかすらよくわからなくて
ただ終わった後、親父が優しく頭を撫でてキスを1つくれたことは覚えている
その日以来、家に2人きりになると親父に犯されるようになった

親父が軍で何をしていたのかは、よく知らない
軍にいるときは1年のうちの3分の1もうちにいなかったし、親父も家にいるときは親父の話はしなかった
ただ時々訊ねてくる軍人連中から聞く話では、親父は軍では生きる伝説とまで呼ばれていたらしい
家にいる、悪食で大食らいで大雑把を極めている姿から全く想像できないが

よく考えれば、最初に犯される前から親父は俺に性的な手つきで触れてきていたような気もする
触られても、元々親父はスキンシップが過剰気味の人間だったし、俺達兄弟をいつまでも小さな子どもだと勘違いしているような節があったから大して気にしてはいなかったが

「は、ぁっ」

緩やかに尻を撫でていた指先がゆるりと尻の谷間を撫で、そのままぐっと指先が押し込められる
その衝動と苦痛を、息を押し殺してやり過ごす

「声は出したほうが楽だぞ?」

「うる、さいっ」

何度目になるかわからないやり取りと同時に、親父の呆れたような声が耳を撫ぜる
限界まで振り向いて睨みつけてやれば、親父はどこか困ったような表情のままで指を動かし始める

「く、ぅっ」

的確に、それでいて複雑に
俺の体を知り尽くした指先は、あっという間に体の熱を上げていく
甘い疼きに、徐々に体の力が抜けていく
先ほどとは違う意味で上がりそうになる声を、唇をかみ締めて堪えようと試みる

「唇を噛むな、後で腫れるぞ?」

だが、親父は俺のそんな思考なんかお見通しらしく、咎めるように唇を撫でられる
こういった部分だけ手際がよくて、苛立ちにも似た感情が湧き上がる
いや、後ろで感じる体に仕込んだのは親父だから、俺がどういった行動に出るかくらいわかりきっているのかもしれない
自分だけ、何もかも見透かされているような感覚
それが無性に気に食わなくて、唇を撫でる指先に、思い切り噛み付いた

「っ!?」

「はっ…ざまぁみろ」

俺を押さえつける親父の体が一瞬ギクリと硬直し、何かを堪えるように息を詰める
その様に、少しだけ気分がよくなる
顔を拝んでやろうと親父の指を吐き出して、限界まで首を捻って笑ってやると

「…リキッド、お前は痛い方が好きみたいだな」

暗さを含んだ愉しげな声が、耳にへばりつき

「が、はぁっ!」

何の遠慮もなく増やした指を奥まで突き立てられ、口から苦悶の声が上がる
そんな声を上げる俺に構わず、親父はそれを引き抜いては突き立てる

「うぐっ…くぅ、あっ」

「相変わらず、お前は痛いのが好きだな…全く、誰に似たんだか」

どこか呆れたような、むしろ穏やかさすら含んだ声とは裏腹に、中を攻め立てる指の動きは酷く荒い
慣らすというより、掻き混ぜるといった方が近いほど荒々しい行為
そんな行為でも快楽を感じてしまうのは、親父に全てを見透かされているせいか
それとも、俺の全てが親父に染まってしまっているせいか
考えたくなくて、額を床につけて目を閉じる
濡れた淫猥な音と、親父の荒い息遣い
耳を擽るそれらと胎内を掻き混ぜられる快感に、息を詰めて耐えていると

「…強情なところは、俺似だな」

ふっと柔らかく笑うような雰囲気と同時に聞こえてきた、暖かくて優しい、僅かに父親としての感情の混じった声
その声に、振り向こうと顔を上げたのとほぼ同時

「うぁっ…くぁ、いっ…!」

指が引き抜かれ、代わりに親父自身がソコへ押し付けられる
その衝撃に一気に体が強張るが、すっかり慣らされきっていた体は、ズルズルと飲み込むようにそれを受け入れる

「嫌がっていた割には、あっさり受け入れるな」

くく、と喉の奥で笑う親父にかっと頬が熱くなる
反抗しようとしたけれど、休む暇もくれず動き出した親父に、あっという間に意識が流される

「あ、はぁっ…っぅ、う、ぁっ」

「いい声で鳴くなぁ、普段とは別人みたいだぞ?」

すでに抵抗する気はないと判断したのか、親父は俺の体を押さえつけるのをやめて腰をがっしりと掴み、からかうように囁く
抵抗しようにも、甘い快感ですっかり力なんか入らない体は、親父から与えられる快感に悦んで食いついている
せめてもの抵抗に首を振って見せるが、どうやら親父を喜ばせただけらしく、愉しげな笑い声が振ってくる

「くぁっ…あ、やめっ」

「ほら、こっちもこんなにして…気持ち良さそうだな、リキッド」

ぺろり、と耳朶を舐める親父の舌に、下肢に伸ばされる指先に
甘く痺れるような快感が背筋を這い回り、意識も白く濁りドロドロに溶けていく

本当は、わかっている
親父から逃げる気になれば、いつだって簡単に逃げられる
俺だって、もうあの頃のような子どもじゃない
死ぬ気で抵抗すれば抗えるだろうし、何なら家を出てしまったってばいい
いくら親父でも、家を出た俺を追うような真似はしないだろう
それだけのことで、この狂って歪んだ関係は終わりを告げる
いつだって、本当に些細なことで親父と縁は切れる

終わらせようとしていないのは、親父との縁を切ろうとしていないのは
他でもない、俺自身だ

『リキッド』

瞼の裏に、まだ俺達が親子と呼べる関係を続けていた頃の親父の笑みが浮かぶ
気付いていた、ずっと親父を父親としてだけでは見れなかった自分自身に
気付いていた、強引に俺に触れる親父の手に宿っているものが、欲情混じりの愛情だということに
気付いている
親父が俺を犯すのは、全ての罪を自分が被るつもりだという事に
気付いている
そうしなければ、愛し合えないことに

全部、わかっている
そうしなければ愛し合えないほど、俺達の関係も感情も罪深いものだという事に
想いを伝えあえば、何もかもが崩れてしまうことに
どちらの関係であろうと、結局は俺が庇護される側だという事に

情けない、狂ってる、赦されない、全部わかっている
それでも、愛している
歪んでいたって、狂っていたって
親父が俺を見てくれるなら、愛してくれるなら、愛し合えるなら
それでもいいと、我ながら気持ち悪いことを本気で思っている

「うぁっ…あ、あぁぁっ」

「くぅっ…リキッド…!」

強烈な絶頂感と、腹の奥が熱くなるような感覚
ずるり、と親父が俺の中から抜け落ちると同時に、本格的に意識が白濁を始める
振り向いて悪態の1つでもついてやりたいが、もう体は完全に俺のいう事を聞こうとはしない
不意に親父の温かな手が俺に触れ、くるりと体がひっくり返されるような感覚に、顔をほんの少し上げれば
俺と同じ色をした、親父の温かな瞳と視線がかち合った

―愛している、ジョン

意識が途切れる寸前、音もなくそう呟いた俺に、小さく親父が笑ったような気がしたが、俺にはそれを確かめることが出来なかった



「…少し、無理をさせすぎたか」

気を失ってしまったリキッドの柔らかな髪を撫でながら、我ながら罪深いものだと何度となく思ったことを飽きもせずに考える
俺の持たない、柔らかく癖の強い金色の髪
日に焼けたのとは違う、浅黒い肌
それでも、その瞳の色は俺と同じもの
確かに、こいつは俺の血を引いた息子だ
産声を聞き、世話を焼き、成長を楽しみ、慈しんできた
本来なら、そういった愛しさを抱くはずのかけがえのない存在

「リキッド…」

その息子を、息子として見れなくなっていったのはいつのことだったか
俺を見つめる真っ直ぐな青い瞳に、愛しさと欲情を覚えるようになったのは、いつだっただろうか
あの青い瞳に篭っている感情が、親子の情を越えたものだという事に気付いたのは、いつだっただろうか
その瞳に、己の欲望を抑え切れなくなったのは…父親としての役割を放棄したのは、いつだったか

世間的にも倫理的にも赦されない、どれだけ愛しあっていても決して認められやしない
自分達のしていることがどれだけ罪深いか、どれほど狂っているか痛いほどわかっている
それでも、愛している
俺が手放してやるべきなのに、手放してやれない
だからせめて、全ての罪は俺の手に
無理矢理息子を犯す外道の父親、狂気に堕ちた犯罪者
万が一この関係が他者にばれた場合、糾弾されるのは俺だけでいい

「愛している…すまないな、悪い父親で」

だからこそ
愛の言葉も謝罪も、互いが知らぬうちに
それでも、俺の言葉など届いていないはずのリキッドは
俺の謝罪と愛に、小さく微笑んだ

「…愛している」

その笑みに、泣きそうなほどの愛しさと罪悪感を覚えながら
俺は緩く弧を描く口元に、込められるだけの思いをこめてキスをした


















遅くなって大変、大っ変申し訳ありませんでしたあぁぁぁぁぁ!!!!!(土下座)
いやもう本当にリク頂いてからどれくらいたったのかと…お叱りはいくらでも受けます、本当に申し訳ありませんでした!!

現パロネイリキで近親相姦かつ強姦、でもラブラブで!
とのリクエストだったので、色々とはっちゃけました
父と息子という、最高に不毛で禁忌な関係という感じを全力で押し出した結果、どのあたりがラブラブなのか、そもそもコレは現パロなのかという疑問しか残らない出来になりましたorz
最高の禁忌で不毛で認められないとわかっていても、それでも愛し合っている2人…みたいなのが書きたかった…
現パロっぽさを出すためにネイキッドさんの経歴を入れたら、完璧に蛇足っぽくなった…
せめてタイトルだけでもかっこよくしたかったけどなりませんでしたもうすみません

あ、甘い話を期待していらっしゃったらなすみません…(土下座)
お叱りはいくらでもお受けします
リクエスト、本当にありがとうございました!

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