Amusement park panic・2



黒と赤を基調とした、おどろおどろしい建物
大音量で流されている、どこか不気味なBGM
さらに効果音として流される悲鳴

それらを前に、完全にリキッドは固まっていた

「どうしたリキッド?」

「…兄弟、本当にこれに入るのか?」

どこか不機嫌そうな表情で俺を見るリキッドは、あからさまに建物…お化け屋敷から目をそらしている

「そのためにきたんだろ?」

「…それはそうだが…」

わざと気付かないふりをして軽く肩を竦めて見せれば、いつも物事をはっきりというリキッドにしては珍しく言葉を濁した

こう見えて、実はリキッドはこういった類のものがものっ凄く苦手だ
なんだかんだ言ってホラー映画は絶対見ないし、こういったお化け屋敷にも絶対に行かない
吸血鬼と聞くだけで悪夢を見る親父の血を濃く引いているのか、それとも小さい頃に親父が悪ふざけを起こした肝試しがいまだにトラウマなのか…多分両方なんだろうが
周りにはうまいこと誤魔化しているが、双子として生まれ育った俺にはバレバレだ

早々に引っ張り込んでしまおうと受付にチケットを見せるが、リキッドはいまだに気乗りしないらしく動こうとしない

「どうした?行かないのか?」

「…あぁ、行く」

けど、声をかければ渋々といった風にこちらに歩いてきて、俺と同じようにチケットを見せた
プライドの高いリキッドは、自分が一度言い出したことは絶対に撤回しない
普段はソレが厄介だが、こういうときには物凄く役に立つ

「2名様ですね?途中でリタイアしたい場合などは、この懐中電灯を上に向けて振ってください。スタッフがすぐお迎えに上がりますので!」

「あぁ、わかった」

「それでは気をつけていってらっしゃいませ!」

このアトラクションには不釣合いなほど明るい声を背に受けながら、リキッドを半ば引きずるようにして中に足を踏み入れた

「結構暗いな」

受付で懐中電灯を渡されただけあって、中はかなり暗い
しかも、おどろおどろしいBGMと奥から吹いてくる冷やりとした風のおかげで、結構不気味だ
ちらっと隣のリキッドに視線をやれば、あからさまに動揺したように目を泳がせている
暗くてはっきりとはわからないが、何となく顔色が悪いようにも見える

「リキッド」

試しに声をかけてみると、その瞬間ぎくりと大げさなほど体を震わせ

「ななな何だ兄弟!!?」

物凄いオーバーリアクションで、俺の方へ勢いよく振り向いた

「…大丈夫か?リキッド」

「な、何がだ!?きき貴様こそ、怖いんじゃないだろうな!!?」

「いや…別に…」

いや、怖いのはお前だろう?
あからさまなリキッドの態度に、漏れそうになるため息を飲み込んで軽く首を振って見せる
怖がるとは思っていたが、まさかここまでとは
口車に乗せて連れ込んだことに、少し罪悪感を覚えるほどの怖がりっぷり
…それ以上に、物凄く好奇心を刺激してくれるが

「リキッド」

「な、何だ!!?」

「やっぱり怖いから、服の裾握っててくれないか?」

ビクビクと小動物のようにあたりを警戒しているリキッドに笑いが漏れそうになりながら服の裾をリキッドの前で軽く振ってみせる
さすがに手を繋ぐのは、リキッドも拒否するだろうしな

「し、仕方ないな!貴様がそこまで言うなら握ってやらんでもないぞ!!」

俺の提案にリキッドはほっと一瞬安堵したような表情を見せ、どこか得意げにそう言うと、ぎゅうっと大げさなほど服の裾を握りこんできた
その様子に、リキッドにばれないようにこっそりと笑う
この図では、端から見たらリキッドが怖がって俺の服を握っているようにしか見えないが、当の本人は今はそこまで頭が回らないらしい

「よし、さっさと行くぞ兄弟」

さっさとこんなところ出たいのか、それとも俺が怖いといったせいで多少気が紛れたのか、先ほどよりは顔色がよくなったように見えるリキッドがさっさと歩き出す
その手に引っ張られるようにしながら、ニヤニヤを抑えきれないまま俺も歩き出した

「がぁぁっ!」

「っ!?」

「きゃぁぁぁぁ!!!」

「っっ!!?」

さすがは有名な遊園地のお化け屋敷だけあって、演出もお化けのメイクなども中々凝っていて、こういうのが苦手ではない俺でも驚かされる
だが、すぐ側に自分よりも慌てている人間がいると冷静になれるのと一緒で、俺以上にこのアトラクションでビビッているリキッドの様子が面白すぎて
ほんの些細なことにすらビクリと反応し、どうにか悲鳴を上げまい、俺に悟らせまいと必死になっているリキッドは本当に面白い
しかも、本人は無意識なんだろうが驚くたびに俺に密着してくる
最初は服の裾を掴んでいたのが、段々と腕を掴み始め
そんなこんなで、半分を過ぎる頃にはリキッドはがっちりと俺の腕を抱え込んでいた

「ようやく半分だな…」

「そうだな…」

一応そう声をかけてみたが、リキッドはすでに驚き疲れているのか、返事が段々とおざなりになってきている
普段なら皮肉なんかの一つや二つは飛んでくるだろうが、そんな気配も見えない
もう十分驚くリキッドは堪能したし、早めに出ようかと考えていると
リキッドが、不意に体をビクリと震わせ

「貴様…何のつもりだ?」

いきなりわけのわからない因縁をつけてきた

「何がだ?」

「ふざけるな、こんなところで肩を抱くな」

「は?肩?」

「さっきから触ってるだろう、このソリッドアイボリーがっ」

ものすごく不機嫌そうに、俺をぎろりと睨みつけてきた
どうやらリキッドは、誰かに肩を触られているらしい
確かに、この状況でリキッドの肩を抱けるのは俺だが…

「…俺の腕、お前が握ってるじゃないか」

握っているというよりは、むしろガッツリ掴んでいるというほうが正しいが、そう指摘してやる
そう、俺の左腕はリキッドにホールドされていて動かせないし、右手をリキッドの肩に回せるほどの柔軟性はさすがに俺にもない
そのことにようやく気が付いたのか…人にしがみ付いておいて忘れたもクソもないと思うが…リキッドの表情がびしりと音を立てて固まった

「…じゃあ、誰が…?」

ぽつり、と思わずといった風に漏れたリキッドの言葉に、2人して顔を見合わせ
リキッドはぎぎぎ…と油の切れた人形のように
俺は何気なしに、ほぼ同時に後ろを振り返ると

「…うふふ…」

長い髪を前に垂らした女が、にたぁっと微笑んでいた

「うぉっ!?」

こういった類のものが苦手ではないとはいえ、振り向いたらいきなり幽霊メイクの女が笑っていたら驚かないわけにはいかない
つい声を出して反射的に女から一歩引こうとしたが、リキッドにガッツリとホールドされているせいで、逆に引っ張られそうになった
それで、気が付いた
リキッドが、この事態に対して何のアクションもしていないことに
あのリキッドのことだ、こんな目に合ったら悲鳴くらいは上げると思ったんだが…
恐る恐る、隣へと視線をやると

「………」

リキッドは、完全に固まっていた
振り向いた表情のまま、まるで石のように凍り付いている
数秒か、はたまたそれ以下の時間か
固まった表情が僅かに動くのと同時に

「(あ、ヤバイ)」

生まれたときから…いや、生まれる前からずっと一緒にいた俺のカンが、ヤバイと警鐘を鳴らし始める
その本能に逆らわないまま、しっかりと俺の腕を握るリキッドの腕をがっちりとホールドし

「●△■※〜〜〜!!?」

俺が全力で走りだしたのと、リキッドが声に鳴らない悲鳴を上げたのはほぼ同時だった
ここでパニックになられて、暴れられたら困る
それで万が一スタッフに怪我でもさせれば、もっと困った事態になる
半ば暴れているリキッドを引きずったまま、俺は全力で出口へと走っていった

「…そんなに怖かったのか、ソリッドアイボリーが」

だから、怖かったのはお前だろう
喉元まででかかった言葉をどうにか飲み込んで、あぁ…と適当に返事をしながら水を口に含んだ

あの後、必死の形相で飛び出してきた俺達に軽く引いた様子のスタッフに懐中電灯を返し、ガタガタと震えているリキッドを引きずって売店の前まで来た
そのまま無言で買ってきた水を互いに飲むこと数分
リキッドはようやく、俺に対してそういった皮肉を吐けるほどには回復したらしい

「兄弟が、あんなに怖がりだとは知らなかった」

「…俺にだって怖いものはある」

「ふん、あんな作り物が怖いのか?」

「そうだな、怖かった」

「自分が行きたいといっておきながら、怖がるとは…貴様は本当に馬鹿だな」

自分が怖かった、というのを悟らせないようにしているのかもしれないが
あれだけバレバレで、誤魔化せるはずないだろう
こいつは頭はいいはずなのに、どうしてこうアホなのかと問いただしたくなってきたが、そのアホが好きな馬鹿が俺なので黙っておくことにした

「リキッド、観覧車乗らないか?」

「何故貴様と観覧車に乗らねばならん」

「お化け屋敷が怖かったから、まぁ口直しみたいなもんだ」

お前も高いとこ好きだろう?と軽い口調で言ってやると、リキッドはふんっと鼻を鳴らしていつものように笑い

「ふん、そこまで言うなら乗ってやらんでもない」

リキッドはいつものように偉そうにそういうと、ゆっくりと立ち上がった
その表情は、何となく嬉しそうで
煙と何かは高いところへ登りたがる
という事場が一瞬頭を過ぎり、つい吹き出してしまいそうになった

「観覧車どっちだ?」

「確か…あっちだ」

「…貴様、何を笑っている?」

「いや別に?」

それに観覧車は密室、つまりは2人だけ
多少なら悪戯できるかもしれないと邪な願望を抱きながら
不審げに俺を見るリキッドに軽く手を振って見せながら、観覧車へ向かって歩き出した


















涼夜様リク・遊園地でソリリキでした!
大変、ものっ凄く大変お待たせしてしまい申し訳ありません!!!(土下座)
お叱りはいくらでも受けます、本当にすみませんでした!

強がってはいても怖がっているリキッド、というリクエストでしたので、リキッドに思い切り怖がってもらいました!
あれです、リキッドってホラー苦手そうだよね、という勝手な思い込みから成り立っている話です
ソリッドのキャラがおかしくてすみません…ソリリキだとどうしてもソリッドが…orz
…遊園地なんて何年も行っていないので、色々おかしいと思います
観覧車でのイチャイチャは、別CPで書いたので…皆様のご想像にお任せします(コラ)

色々と本当にすみませんデした!
リクエスト、本当にありがとうございました!

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