Amusement park panic・1



「で、何から乗る?」

「もちろん、ジェットコースターからだ」

…やっぱりか
心なしか、いや確実にキラキラと目を輝かせ、ずんずんと大股でジェットコースターへ向かって一直線に歩いていくリキッドの半歩後ろを歩きながら、俺はリキッドにばれないように苦笑した

俺達が今いる場所は、この辺りでは有名な巨大遊園地
実は一度来てみたいと思っていたこの場所に、何故可愛い彼女とかではなく野郎2人…俺からしたらリキッドも可愛い彼女だが…で来ているのか
仲良くデート、と言いたいが、実はオタコンにチケットを貰ったのだ
元々オタコンが妹のエマと行く予定だったのだが、直前になってエマが熱を出したらしい

『2人とも、遊園地好きだったよね?』

そう言ってニコニコと笑うオタコンに、さすがにもう遊園地で喜ぶような年でもないと言いたかったが、生憎俺の双子の兄弟…リキッドは遊園地、正確には絶叫マシーンが大好きなので遠慮なく貰っておいた
ちなみにどれくらい好きかというと

『リキッド、日曜暇か?』

『…暇だが、貴様と休みの日まで関わりあう気はない』

『そうか…オタコンから遊園地のチケットを貰ったんだが、行かないならメリル達に譲r』

『場所は?』

『あそこだ、FHランド。でもお前がいやn』

『誰も行かないとは言っていない。日曜だな』

基本的に俺と出掛けることを素直には了承しないあのリキッドが、たった数秒で行くと言い出すくらいだ
口にはしないが物凄く楽しみにしていたらしく

『おい兄弟起きろ、朝だ』

やたらテンションの高いリキッドに朝6時に叩き起こされ、食事や身支度もそこそこにリキッドの車に押し込まれ、開園とほぼ同時に到着した
おかげで園内は休日だというのに、まだ閑散としている
多分、いまから1時間もたてば人がゴミのように溢れているはずだ

「何だ、結構空いているな」

「あぁ、お前が開園時間ぴったりにきたからな」

「2人だ」

リキッドは俺の軽い皮肉をものともせず、係員にチケットを見せている
まぁ、今はリキッドの好きにさせてやるかと思ったのが間違いだった

「…気持ち悪い」

数時間後、俺は見事に疲れ果て、乗り物酔いか吐き気に悩まされるハメに陥っていた

「だらしないな、兄弟」

ぐったりとベンチにもたれかかる俺とは逆に、リキッドはぴんぴんしている
いや、心行くまで絶叫系を堪能したおかげで、普段よりもテンションが上がっている
そのせいか、いつになくいきいきとした瞳で俺を見下ろしている
物凄くウザイが、肉体的にも精神的にも疲れ果てているせいで、抵抗する気すら起きない

「…お前と一緒にするな」

「ふん、鍛え方が足らないからこれしきのことでグロッキーになるんだ」

いや、園内にあるジェットコースター5種類、その他絶叫系3種類を2セットずつかまされてグロッキーにならない奴の方がおかしいと思うぞ
そういってやりたいが、今リキッドと喧嘩できるだけの余力は残っていない
視線だけで軽く抗議すると、リキッドはふふんっと得意げに鼻を鳴らし

「軟弱なお前はこれでも飲んでろ」

俺に何かを投げつけてきた
反射的に受け取ると、スポーツドリンクのペットボトルだった
しかも、俺が好きなメーカーの

「これ、どうした?」

「そこに売っていたからな、ついでだ」

よく見るとリキッドの手には、チョコとバニラのミックスソフトクリーム
どうやら、ソフトクリームを買うついでに買ってきてくれたようだ
珍しい、リキッドが俺に何か買ってくるなんて
テンションだけじゃなく、機嫌も最高にいいらしい

「ありがとう、リキッド」

「…貴様に礼を言われると気味が悪い」

「失礼だな、俺だって礼くらい言う」

「ふん、雨でも降らなければいいが」

どこか訝しげに俺をひと睨みするリキッドにもう一度礼を言って、蓋を開けて中身を一気に煽る
リキッドも俺を一瞥すると、手の中のソフトクリームを口にした

「美味そうだな、一口くれないか?」

「断る、自分で買え」

それから俺が回復した後、コーヒーカップやら、バイキングやら、リキッドの乗りたいものに散々付き合い

「リキッド、ちょっと行きたいアトラクションがあるんだが」

乗りたい物を乗り倒し、満足した頃にそっと声をかけてみる

「…どこだ?」

俺の言葉に、リキッドは不機嫌そうにしながらも、パンフレットを俺にも見えるように広げた
リキッドは捻くれてはいるが、根はいい奴だ
俺は今日、何に乗りたいという主張を全くせずひたすらリキッドに付き合っている
そんな俺が行きたいと言い出した場所なら、リキッドは付き合ってくれるだろう
それが狙いだと、気付かずに

「ここなんだが…」

内心ほくそ笑みながらあるアトラクションを指差すと、リキッドの眉間にあからさまに皺が寄った

「…兄弟、こういうの好きだったか?」

「まぁ、人並みに」

「そうか」

その表情から、その声から、物凄い拒否のオーラが出ている
だが、一応こう見えても生まれた瞬間から一緒にいる双子だ
こういったときの対処法くらい、身についている

「…いや、お前が嫌ならいいんだ。行ってみたかっただけだしな」

あからさまに残念そうな表情を作り、少し声のトーンを落としてやると、リキッドの顔に僅かに動揺が走る
リキッドの操縦方法は、意外と簡単だ
良心かプライドを刺激してやればいい
朝っぱらから俺をつき合わせ、自分の乗りたい物を乗り倒したリキッドにとって、俺が行きたいと言い出した場所を却下するのは、さぞかし良心が痛むだろう
それにプライドを刺激するのは、直前で逃げそうになった時の方が効果的だ

「…別に、かまわん」

沈んだ表情を作っていると、予想通りリキッドは不機嫌そうにしてはいるが嫌だとは言い出さない

「いいのか?リキッドが嫌なら…」

「貴様が行きたいと言い出したんだろう」

仕上げに軽く下手に出てやると、リキッドはふんっと鼻を鳴らすと自分からそのアトラクションに向かって歩き出した

よし、計画通り
その半歩後ろをついて歩きながら、俺は小さく微笑んだ


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