マングースの幸せな日常・ほんの少し未来の話
「なぁ、マングース…ちょっと…」
「何ですか?副指令」
昼飯時も過ぎ、人もまばらになった食堂
隅の小さなテーブルに座って、副指令と休憩がてら談笑していたのだが…副指令が、どこか深刻な顔をしてこいこいと手招きをしてきた
その手に促されるままに、顔を近づける
隣に座っているのにその仕草をするのは、何か内緒話があるときだ
そして、副指令がこんな顔をするときは、大抵ボス絡みの悩みの場合が多い
副指令とボスがめでたく付き合い始めてから、早数ヶ月
多少のぎこちなさはあれど、副指令は幸せそうに笑うようになり、ボス絡みの話もノロケとも愚痴とも判断できないものばかりだった
俺としてもその話を聞くのは嬉しかったし、副指令が幸せそうだと何だか俺まで幸せな気分になれた
だから、副指令のこんな顔を見るのは随分と久しぶりだった
どうしたんだろう?ボスと喧嘩でもしたんだろうか?
いや、2人はしょっちゅう喧嘩しているし…もしかしたら、副指令が意地を張って謝るタイミングがわからなくなってるのかな?
副指令、意地っ張りだし…
「ま、マングース…その、落ち着いて聞いてくれよ?」
「は、はい…どうしたんですか?」
「その…お、おおお…男…」
だが、副指令はどこか頬を染めて、ゴニョゴニョと小さな声で呟き始めた
いくら内緒話といっても、これじゃあ何を言っているのか全く聞こえない
「…え、っと…?」
言いにくい相談なんだろうか?
そう思いながら聞き返すと、副指令はぐっと息を詰め
「だ、だから…おっ…男同士の…せ、セックスって……やっぱ、痛いの、かな?」
ちらり、と一瞬視線を外した後、声を潜め…けれど先ほどよりは聞き取りやすい声で
そう、思いも寄らない相談を持ちかけてきた
「えーっと…」
どうしよう
正直、そういう方面の話だとは思っていなかったから、何と言っていいのかわからない
結構痛くないですよ!とか言ってあげられればいいのかもしれないけれど、残念なことに俺も男とのそういう経験はまるでない
自分が経験していないのに、無責任に平気だともいえないし…
そこまで考えて、ふと疑問が湧き上がってくる
「…ていうか、副指令が女役ですか?」
「ボスに、力で勝てると思う?俺だって男役の方がいいけど…スネークが男役がいいって言ったら、俺ひっくり返す自信ない」
どこか泣きそうな声でそう言う副指令に、失礼だが確かに…と思ってしまう
副指令よりもボスの方が、確実に力は強い
というか、ボスに力で勝てる人間なんて、このマザーベースにすらそう多くはいないだろう
ボスが自分で女役になると言わない限り、副指令が女役になるのはほぼ確実だろう
「ぼ、ボスから…その、そういったお誘いがあったんですか?」
「…口には出して言わないけど…その、キスされるときとか、さりげなく尻の辺り触られるし…」
「そ、それは…」
それは明らかに、ボスは性的な意図を持って副指令と接している
付き合い始めて、数ヶ月
世の恋人ならば、そろそろワンステップ進んでもいいかもしれないと思い始める時期
すでにキスもすましてしまっているし…ボスとしても、そろそろ先へ進みたいのかもしれない
「…副指令は、どう思ってるんですか?」
けど、こういうのはやはり2人の意思が大事だと俺は思う
無理矢理相手に合わせても、関係の綻びにこそなるけれど関係が深まることはない
「…俺は、スネークが相手なら…その、女役でもいいと思ってるし、スネークがシたいならいいかなぁって思うけど…」
もにょもにょとどこか恥ずかしそうに言いよどむ副指令に、いいようのない感情が湧き上がってくる
副指令がどれだけボスを好きかは、側に居た俺が一番よく知っている
それを知っている俺から見たら、その表情は微笑ましい以外の何ものでもない
けれど、副指令はすぐに真面目な顔になり
「けどさ…やっぱ、男同士だと…使うだろ?ケツ…」
ずいっとさらに顔を近づけて、先ほどよりも声を潜め眉を下げた
「多分…使うでしょうね」
男は女と違って、それ専用の穴は空いていない
なら、セックスのとき何処を使うかといわれれば…尻を使うとしか言いようがない
男同士のセックスに詳しくない俺でも、それくらいはわかる
「でも、ボスの…その、でかいし」
「あぁ…何て言うか…その、アナコンダですしね」
数秒の沈黙の後
ようやく本題とも言える話題を口にした副指令にそう返せば、副指令はふにゃりとどこか泣きそうに眉を下げた
俺もサウナとかシャワーで、ボスのモノを見る機会は何度かあったが…控えめに言っても、平均以上の立派なモノを持っている
さすがは、我らがボス…と、シモネタで盛り上がるときは、大抵話題に出るくらいだ
その、ボスご自慢?のアナコンダを、尻に…
想像しただけで、きゅうんっと背筋を嫌な感覚が伝う
「どうしようマングース…無理、俺絶対無理…あんなの絶対入らない…」
副指令も想像したのだろう
さっきまで染まっていた頬がどこか青くなっているし、サングラス越しにも判るほど涙目だ
「ふ、副指令…大丈夫ですよ!きっとボスは優しくしてくれます!」
「…優しくしてくれたら、痛くないかなぁ…?それ以前に、入るかな、アレ…」
「………や、優しくは、してくれると思います…」
どうにか副指令の気を紛らわせようと必死で頭を働かせてみるが、いい言葉が何一つ思いつかない
いや、そういう分野が開拓されている以上、普通のものは入るのだろうとは思うけれど
ボスのアナコンダが入るかと聞かれたら、正直自信がない
しかも、普通サイズでアレだ
膨張したりしたらと考えると…入る?と聞かれて入りますよ!なんて言えない
しかも、痛くないなんて嘘、絶対に言えない
だって、絶対に痛いよ、あの大きさは
いくら愛している相手でも、あのアナコンダを入れさせてくれって言われたら…うん、躊躇しかしないよな
「痛いよな…っていうか入らないよな…アレでかいもんな…」
「い、痛くないようにボスにしっかり慣らしてもらうか…あるいは、入れずに満足してもらう方向で頑張ってみるとか…」
「どうやって?」
「扱くとか舐めるとか…後挟むとか…」
「どこに?」
「太ももなんてどうですか?ローションたっぷり使ったら、それっぽくなりそうな気が…」
「太ももか…ボス、それで満足してくれないかな?」
「そうですねぇ…」
どうにか入れないで済ませてもらえる方法を考える方向でまとまりかけていると
「…お前ら、何を話している?」
突然背後から、ボスの声が聞こえてきた
「「うわぁぁぁぁ!!!」」
その声に、副指令と俺の悲鳴が重なる
慌てて振り返ると、きょとんと目を丸くした、何となく甘い香りのするボスがすぐ背後に立っていた
い…いつの間に…全然気付かなかった
バクバクと聞こえてしまいそうなほど大きな音を立てる心臓を押さえる忘れて、ボスを呆然と眺める
本当に、心臓が止まるかと思った
「おいおい、驚きすぎじゃないかお前ら」
「す、スネークが急に声かけるから…!!」
「あぁ、すまん…で、お前ら何を話していた?」
ボスの問いかけに、言葉に詰まる
まさか、ボスのアナコンダが大きすぎてセックスのとき痛くないか、それ以前に入るかどうかすら不安なんです、とは言えない
ちらり、と副指令を見れば、涙目でぶんぶんと首を振っている
やっぱり、セックスについての相談をしていたなんて知られたら、恥ずかしいんだろう
絶対に、真実をボスに話すわけにはいかない
「……か、怪談話を、少し…」
必死に考えて考えて考え抜いた結果
ぽんっと浮かんできた言い訳が、反射的に口から零れ落ちた
「…怪談話?」
俺の言葉に、ボスは物凄く怪訝そうに眉を寄せる
うん、我ながら苦しすぎる言い訳だという事は自覚している
もっといい言い訳は思いつかなかったのかと、自己嫌悪に陥っていると
「そ、そう!怪談話してたんだ!マングースが日本の怪談話聞きたいって言うから!!」
副指令が引きつったような笑顔を浮かべ、ぎゅうっと俺の肩を抱いてなぁ!?とこちらを縋るような目で見てきた
もう、多少苦しくてもこの言い訳で押し切るしかない
「そうです!お皿を1ま〜い、2ま〜いって数えていくやつとか背筋が凍るかと!」
「皿屋敷だな!四谷怪談は面白いからなぁ!それに日本の吸血鬼の話も…」
「吸血鬼の話はするな」
怪訝そうなボスを横目で見ながら、必死で笑顔を作って話していると、不意にボスがそう強い口調で言い放った
「どうしたんだスネーク…あ、わかった!ボス吸血鬼が苦手なんだな?」
一瞬きょとんとした表情でボスを見た副指令だったけど、すぐににっこりと笑みを浮かべ、とことことボスに近寄って楽しげにボスの顔を覗き込んだ
「苦手じゃない、ただ話を聞くと悪夢を見るだけだ」
「それが苦手って言うんだよ」
「苦手じゃない」
「なら聞く?日本の吸血鬼の話。こう見えても怪談はちょっと自信が」
「いや、遠慮しておく」
「遠慮するなよボス〜、俺達の仲じゃないかぁ!」
どこか困ったように視線をさ迷わせるボスに、副指令は楽しげに肘でボスを突いている
話がそれてホッと息を吐くと同時に、仲良さそうな2人に微笑ましさを覚え
邪魔をしないように2人に小さく会釈をしてから、俺はその場を離れた
「はぁ…助かった…」
俺達を見るボスの目、何だかちょっと怖かったし
それにしても…やっぱり恋人同士の付き合いってなると、やっぱりそういう問題も出てくるんだろうな
女の人でも、最初は痛いって聞くもんな…やっぱ、男同士だとそれ以上に痛いよな
それに、ボスのアナコンダだし
…経験者から、知識を仕入れて副指令に教えてあげるべきかな?
でもどいつが経験者か全然わからないし、こういったことをべらべらと話すのもダメだよなぁ
でも予備知識なしでボスのアナコンダ入れられたら…やっぱ痛いよな
「なぁホーネット…やっぱ、尻にボスのアナコンダ入れたら痛いよな…」
「ぶふぅ!!!」
その日の夕方、経験あるかどうかはわからないけどホーネット相談をして、ホーネットが笑顔のまま飲んでいたコーヒーを噴射させ
挙句よくわからない誤解をされるまで、俺は延々とそのことを考え続けていたのだった
ytten様リク・マングースシリーズでネイカズでした!
お待たせしてしまってすみませんでした(土下座)
付き合ってからの2人なら、初めてのエッチって痛いのかなぁ?な女子高生ノリだ!と勝手に思い込んで、ボスのアナコンダトークになりました
きっと痛いよね…アナコンダだもん。カズ頑張れー(棒読み)
ボスのアナコンダって、書いててすんごい楽しかったwww
ネイカズで!というリクエストだったのに、ボスがちんまりとしか出てなくてすみません
ボス視点と最後まで迷いましたが、やはりマングースシリーズは2人の女子高生ノリだと勝手に思っているので、マングース視点になりました
ボス視点期待されてたら、すみません…orz
ytten様、リクエスト本当にありがとうございました!
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