Love of unchastity
「…よし!」
そろり、と廊下の角から顔を出し、人がいないのを確認してから俺は早足に廊下を歩いた
目的地は、マスターの私室
別にマスターの部屋に行くことを禁止されているわけでもないが、今日ばかりは誰にも見つかりたくない
俺は念のため上着に包んだそれをしっかりと抱えたまま、マスターからの厳しい訓練を思い出して出来る限り気配を消し、曲がり角の先を確認する
俺が抱えているのは、誰かに見つかればあっという間に盗られてしまうだろう代物
マスターの故郷の酒、日本酒だ
元々娯楽の少ない基地では、飲酒や煙草は最大級の娯楽といっていい
俺も腕っ節には自信があるが、さすがに何人も同時に相手できるほどじゃない
万が一にも見つかれば、あっという間に取り上げられて飲まれてしまうだろう
それだけは、絶対に避けなければならない
この酒は、マスターと2人で飲もうと思って買ったんだから
それに、今日はあの男…マスターを独占するあの忌々しい奴も基地にはいない
まさに、2人きりで酒を飲むには絶好の機会だ
「…マスター、ソリッドです」
どうにか他の奴らに見つからずマスターの部屋にたどり着き、ホッと息を吐いてから扉をノックする
「ソリッドか?開いているから入れ」
数秒ほどたってから、扉の向こうから聞きなれたマスターの声が聞こえてきた
ドキドキと緊張でうるさい心臓を深呼吸で沈め、ゆっくりと扉を開けた
「ちょうどよかった、飯を作ったんだが一緒に食わないか?」
部屋の中に入ると、ふわりと漂う飯のいい匂いと、マスターのどこか寂しそうな笑顔が出迎えてくれた
俺達新兵は共同部屋だが、マスターの部屋には簡易キッチンと風呂がついている
マスターもいつもは俺達と食堂で飯を食うが、時々自室のキッチンで料理を作っては俺達に振舞ってくれる
その腕前は、料理が趣味だという事もあってかなりのものだ
「すみませんマスター、食事の前でしたか」
「いいや、かまわない。むしろ君がきてくれて助かった」
1人では食べ切れなくてな、と困ったように笑うマスターの視線の先を辿れば、そこには出来たばかりの美味そうな料理が、湯気を立てて山のように並んでいた
その量は、明らかに2人分を越えている
あぁ、あの男が来る予定だったのか
その量に、おそらくマスターの手料理を一番食べている男の顔が思い浮かぶ
アイツが来るなら、これから来客があるとマスターは言うだろう
つまりは、ドタキャンか
その推測に、ちりり、と胸の奥が焦げ付くような感覚を覚える
マスターに手料理を作らせておいて、ドタキャンするなんて…
俺だったら、たとえなんだろうと蹴ってマスターの元に駆けつけるのに
「いいんですか?実はちょうど腹が減っていて」
ムカムカと腹の奥が熱くなっていくのをどうにか押さえ、教え子の顔を崩さないように笑って、腹を擦ってみせる
「おいおい、もしかして飯が目当てだったのか?」
「あはは…半分くらいは」
「全く君は…」
「あ、そうだ!これ土産です」
「おぉ、日本酒じゃないか!どうしたんだ?」
「たまたま見つけたんです、マスターと飲もうと思って」
「はは、君は本当に可愛い教え子だな!」
まるで子どもを褒めるように頭を少し乱暴に撫でられ、嬉しさともどかしさが沸きあがる
実際マスターは俺の親といってもいいくらい年上だし、マスターにこうして甘やかされるのは嫌いじゃない
けれど、子ども扱いされるのは好きじゃない
子ども扱いされている間は、俺にチャンスなんて微塵もないんだから
マスターが、あの男…ボスと恋人同士な事は知っている
別に2人が関係を公言しているわけじゃないが、部隊の誰もが2人の関係を知っている
いわゆる、暗黙の了解という奴だ
それでも俺は、マスターに恋をしてしまった
この優しさと厳しさを併せ持つ人に、どこか儚さを湛えた美しさを持つこの人に、どうしようもないほど惹かれている
あの男から、マスターを奪いたいと思うほどに
僅かな可能性を信じて、こうしてどうにかマスターに気に入られようとしてしまうほどに
「さて、君がいい酒を持ってきてくれたことだし、飲み明かそうじゃないか」
「イエス、マスター!」
扉を開けたときとは違う、楽しそうな笑みを浮かべたマスターに俺は勢いよく返事をして、マスターに促されるままにソファーに座った
「ソリッド、おかわり」
「マスター、飲みすぎだ」
「君もだろう?この酔っ払い」
意味もなくけらけらと楽しげに笑うマスターに苦笑しながらも、差し出されたグラスに酒を注ぐ
テーブルに乗せられた料理を全て平らげ、俺が持ってきた日本酒も2人で飲み干してしまったのは数時間前のこと
それでお開きかと思ったら、意外にもマスターが酒とつまみを持ち出して、そのまま酒盛りを続け
時計の短針が天井を過ぎた今は、酒瓶がいくつも床に転がっている
酒が入ったマスターは、楽しそうにニコニコと笑いながら俺に絡んでくる
酔いが回ったフリをして取り払った敬語も、特に気にしていないらしい
マスターの酒量がいつもよりも多いのが気になるが、楽しそうに笑っているならいいかと、俺も注がれた酒をぐいっと煽る
「おぉ、いい飲みっぷりだな!さすがは俺自慢の教え子だ!」
「からかわないでくれ」
「よしよし、もっと飲め!」
やたら上機嫌でよくわからない褒め言葉を口にするマスターに、困ったように笑って見せながらグラスを差し出す
マスターは差し出されたグラスを満足げに眺め、机の上の瓶をその上で傾けた
けれど、落ちてきたのはほんの小さな雫だけ
「あれ、もう空か…よ〜し、次はコレを開けないか?」
「いいのか?こんなにいい酒」
「いいんだ…君と飲みたい気分なんだ」
俺の問いかけに一瞬、ほんの一瞬だけ
心底楽しそうな笑みが崩れ、蒼い瞳が寂しそうに細まる
その瞳の色に、忘れかけていた苛立ちが蘇る
多分、これもあの男のために用意された酒
おそらく、今日作られていた料理に合うように、マスターがあの男のために選んだ酒
それほどまでに、マスターはあの男との逢瀬を楽しみにしていたのに
俺があの男の立場だったら、マスターにこんな顔させたりしない
何があっても、マスターとの約束を破ったりしない
そもそも、マスターが本当に心の底から幸せそうに笑うなら、あの男がマスターを本当に大切にしているのなら、俺だってマスターの幸せを奪おうなんて考えない
けれど、マスターは時々俺の前で、こういった寂しそうな表情を見せる
マスターがこんな顔をする原因の大半は、あの男だ
傲慢で我が侭な、あの男のせいだ
俺だったらもっとマスターを幸せに出来る、なんて自信過剰なことはいえない
けれど、マスターを誰よりも大切にする自信はある
マスターがいつも笑っていられるように、寂しい思いをしなくてすむように、精一杯の事をする
俺がマスターの隣に、いられたら…!
「マスター…!」
「ソリっ…!?」
酒が入って爆発寸前の思考のまま、マスターの腕を引き寄せてキスをした
やってしまった…拒まれるなこれは
一瞬で冷静になった思考とは裏腹に、熱に浮かされた体はただマスターを求めている
柔らかな唇に自分のそれを押し付け、ペロリとマスターの唇をねだるように舌で舐める
さて、どうやって言い訳しよう…飲みすぎて覚えていない、じゃ通用しないか
甘い唇にたまらずマスターの背に腕を回して引き寄せながら、必死に言い訳を考えていると
「ん…」
予想に反して、誘うようにマスターの唇が薄く開き
ゆっくりと腕が、俺の背に回された
一瞬面食らったが、早く来いと言わんばかりに腕に力を込められておずおずと舌を差し込むと、待っていたかのようにマスターの舌が俺のソレに絡みつく
さすがに経験豊富なだけあって、あっという間に流されてしまいそうになるのを必死に持ちこたえ、自分からも仕掛けていく
そのままソファーに押し倒すが、マスターの体は抵抗せずにソファーに沈んだ
「…拒まないのか?」
たっぷりと舌を絡ませあってから、唇を離して問いかける
唾液でいやらしく濡れた唇を指先で拭うと、マスターはふっと小さく笑った
「…たまには、若い男が欲しくなることくらいあるさ」
その笑みは、まるで壊れてしまいそうなほど儚くて
それでいて、匂いたつような壮絶な色香を放っていた
その笑みにぞわりと肌が粟立ち、自然と生唾を飲み込んだ
「…軽蔑したか?」
途方もない色香に圧倒されて何も言えずにいると、ふにゃりと困ったようにマスターの眉が下がり、蒼い瞳がどこか不安げに俺を見上げる
けれど、その指先はするり…と物欲しげに、俺の背を撫ぜる
「…いいや」
軽く首を振って笑って見せながらマスターの頬を軽く撫でると、不安げだった表情がふにゃりと緩む
その愛らしさに自然と笑みが深まり、ぽってりと薄く開いた唇に、もう一度口付けた
最初は寂しさを埋める存在でも、若い愛人でも何でも構わない
ようやく転がり込んできたチャンスを無駄にするほど、俺は聖人君子じゃない
可能性がほんの少しでも上がるなら、マスターの寂しさに漬け込む最低な真似だってしてやるさ
「ぁ…」
「マスター、可愛い…」
とろりと気持ち良さそうに蕩けた…けれど寂しさを湛えた瞳に軽くキスをして
マスターの首筋に、顔を埋めた
こじゅ様リク、固マスかマス固でエロめでした!
え…エロくねぇぇぇぇ!!!
お待たせした挙句このクオリティ!いやもうマジすみません(土下座)
いや…アレだよね、不倫とかエロちっくでいいよね、みたいな…米屋ポジションソリッドとかエロくね?とか…
要するに、寂しさで若い男に手を出しちゃうマスター書きたかったんだ!
ごめんなさいごめんなさい、クレイモア地雷に吹き飛ばされてきます…
固マスでもマス固でも、どちらにも見えるように意識したけど、どうも我が家のマスターは受け受けしい
そして、ソリッドは総攻め臭が消えない…
こじゅ様、リク本当にありがとうございました!
お叱りはいつでも受け付けておりますゆえお気軽に!!
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