親しい者なら…普通ですよ?



昼食後、特に予定もなくマザーベースをぷらぷらと歩きながら、俺は少しだけ悩んでいた
あの日…カズとの抜きっこに新たな趣向を加えたところ、カズの俺への態度が少し変わった
やはりカズには刺激が少し強すぎたのか、あの日以来微妙に避けられているというか、無意識に警戒されているというか、そんな感じだ
数時間前、昼を食ったら一緒にキルハウスで射撃でもどうかと誘ってみたが、微妙そうな表情で断られた
予定でもあるのかと聞いたら言葉を濁されたから、単に2人きりになるのに気が進まないのだろう

「…少し早かったか」

最初は抜きあいにも抵抗を覚えていたらしいカズが、最近は抵抗なくすんなりと応じたり、自分からも誘ってきたりしたからそろそろ大丈夫かと…いや、抜きあいの時のカズの愛らしさに我慢が聞かなくなったというほうが正しいが、やはりまだ早かったか
それにしても、あの時のカズは非常に可愛かった
体を震わせながら目を潤ませて俺を睨む姿は絶品といってよかったし、抑えきれない喘ぎ声も非常に色っぽかった
できることならあの姿をもっと見たいものだが、カズに警戒されていてはどうにもならない
やはり少し時間を置いて、ほとぼりが冷めたころに泣き落としでも使ってうやむやにしておくか
カズは目の前でしょぼくれられたりすると結構弱いからな

これからのカズへの接し方を考えながら、本当に当てもなくマザーベースを歩き回る
今日は任務もないし、訓練も午前中に終わらせてしまった
午後の時間は、丸々休みになっている
元々カズと一緒に射撃しようと思っていたせいか、1人ではキルハウスに行く気が起きない
だが、このままうろうろしているのも暇だし、かといって部屋で大人しくしているのももっと暇だ
さて、いい暇つぶしはないだろうかと考えていると、ふと、この間新しい雑誌が入ったとカズが言っていたのを思い出した
このマザーベースは海上プラントだ、当然ながら店なんてものは存在しない
ここに溢れる物資のほとんどは、他所から仕入れた後各部署に配布されたり、個人に配られている
特に嗜好品などは、ごくたまに兵士が任務帰りに買い物に行く以外は、糧食班が食料を仕入れるときに一緒に仕入れている
当然、数少ない楽しみである雑誌なども、そのとき仕入れている
マイナーな雑誌は買い出しの数日前までに申請しておけば仕入れてもらえるが、メジャーな雑誌や人気の雑誌は数冊仕入れて休憩室においてある

個人で買うと金がもったいない上に、大量になると廃雑誌の処理も大変だ
皆が読むなら、皆で回し読みした方が経済的だろう?
と、ケチくさ…いや倹約家のカズがそういうシステムにしたのだ
そういえば、いつも仕入れている雑誌の続きが気になっていたのを思い出した
どうせ暇なのだから、休憩室で雑誌でも読んでいようかと休憩室に足を運び

「…カズ?」

入り口からちらり、と見えた見覚えのある金髪に、俺は中に入らずにコッソリと中の様子を覗いてみた
休憩室には、マングースとカズの2人だけ
マングースは普段とさして変わらず、どこかのんびりとした表情で雑誌を読んでいるが…どうもカズの様子がおかしい
カズも隣で雑誌を読んでいるらしいが、チラチラとマングースを見ているし落ち着きがない
何より、カズは本を読むのが驚くほど早いのに、先ほどから1ページもめくられていない
様子から見て、マングースに何か話があるのだろう
しかも、他人に聞かれてはまずい、そういう類の話が
これは、聞いておかなければならない
こっそりと、休憩室の隅に積まれたダンボールの陰に隠れて、2人の様子を観察する
カズは暫くの間そわそわとマングースと雑誌、それから入り口の間で視線を忙しくさ迷わせ…やがて意を決したように

「あのさ…マングース…今ちょっといい?」

雑誌を机の上に放り投げて、マングースのほうに体ごと向き直った

「あ、はい。何ですか副指令?」

「ちょっとさ、聞きたいことあるんだけど…いい?」

「何ですか急に?」

やたらと畏まったカズに、マングースはきょとんとした表情で小さく首をかしげている
いつもははっきりと物を言うタイプのカズが、こうも言葉を濁すのは珍しいのだろう
カズはう〜、やらあ〜、やら小さく唸った後、意を決したように

「そ、その…戦場では、野郎同士でさ…えっと…その…ぬ、抜いたりとか普通なのか?」

物凄く真剣に、だが恐る恐るといった風にそう言った
マングースはカズの言葉の意味がすぐにわからなかったのか暫く考え込み、ようやくわかったのか

「あ〜…野郎同士で…えっと、性的な処理するかってことですか?」

少し困ったように眉を下げ、少しだけ視線をさ迷わせながら聞き返した
カズも、申し訳なさそうに眉を下げながら小さく頷き

「…どうなの?」

と、真剣な表情でマングースを見つめている
そうですねぇ…と小さく呟いたマングースの様子を見守りながら、背中を汗が伝う
警戒されているのはわかっていたが、カズに予想以上の不信感を与えてしまったらしい
いくらあの時のカズが可愛かったとはいえ、不信感をもたれたら元も子もない
ダンボールの影で息を押し殺し、マングースをじっと見つめる
返答次第では、言い切る前にここから飛び出して締めてやる
そう決意し、いつでも飛び出せるように足に力を込めてマングースの返答を待つと

「普通というか…そういう輩は他所よりは圧倒的に多いですよ?」

暫くの間言葉を選ぶように考え込んでいたマングースは、やはりどこか困ったように笑いながらそう言った
その瞬間、カズの目が驚きで丸くなり

「え、マジ?普通なの?」

嘘でしょ、とでも言いたげに口の端をぎこちなく上げる
だがマングースはへにゃりと、ただでさえ困っている風に見える眉をさらに下げ

「戦場はどうしても女性が少ないですからね。実際、そういう奴知り合いに結構いますよ?」

そう、困ったように口にした

「いるの!?しかも結構!!」

「戦場でも、溜まるもんは溜まりますしね…民間人を襲うのは普通の軍隊ではご法度ですし。それに皆が皆、副指令みたいに相手に困らないわけじゃないでしょう?」

続けてそう話すマングースを、カズはあんぐりと口を開けて信じられないとでも言いたげな目で見つめている
…なんだか、2人の会話が微妙にかみ合っていないような気がする
マングースは戦場だから他所よりは多く知り合いもそういう趣向の人間が多いと話しているが、普通か普通じゃないかという話は一切していない
だが、カズは普通か普通じゃないかに焦点を絞って聞いているせいか、どうやらそれくらいは普通のとこだという風に聞こえているらしい

「じ、じゃあお前もそういうこと…!」

「はは…実は結構誘われるんですよね…なんか、可愛いよなお前とか言われて…」

そして、驚いたように…おそらくほぼ反射だろう…カズに、マングースはそう言って困ったようにため息をついた

「え…えぇぇぇ!!?」

「……俺チビだからか、そういうのの対象になりやすいんですよねぇ…俺ノーマルなのに…可愛くなんかないのに…」

だが、さらに続くマングースの言葉は聞いちゃいないのか、カズは知らなかった…と、愕然とした表情で呟いている
やはり、こいつらの会話は全くかみ合っていない
マングースは体格のせいかよく誘われる、といっているだけなのに、カズは俺という前例があるせいか、頻繁にそういう事をしていると思い込んでいるらしい
しかも、互いにそのことに全く気が付いていない
だが、俺としてはこの勘違いは非常にありがたい
カズに色々と訂正したり泣き落とす手間が省ける上に、もう少し大胆にいっても誤魔化せるだろう
いいぞマングース、と1人心の中で賞賛を送っていると

「じ…じじじ、じゃあ…その、お、俺と…!」

突然カズが予想だにしない、とんでもないことを言い出した

「ん?どうしました副指令」

「だだ、だから…その、俺と…」

「副指令と…なんです?」

「だからさぁっ…だから、アレだよ、アレ!」

顔を真っ赤にして、どうにか明言を避けて説明しようとするカズを、マングースはきょとんと不思議そうに見ている
全く伝わっていないらしいことをカズもわかっているのか、う〜、と唸りながらも必死だ
その姿とやりとりに、じわっと額に汗が滲む

…マズイ、これはマズイ
カズが何を思っていきなりそんなことを言い出したかはよくわからない
おそらく、俺が最初に言った親しいものどうしてでやる行為だという知識と、マングースが頻繁にそういう事をしているという認識が合わさったのだろうが、これは非常にまずい
本人がノーマルだといっている以上おそらく誘いは受けないだろうが…万が一、万が一マングースが応じないとも限らない
そんなことになる前に、どうにかしなければ
カズの信頼も、あの可愛い顔も俺だけのものだ!
他の男に見せてたまるかっ!

いろんな意味で互いしか見えていない状態の2人の目を盗んで、音を立てないように…けれど全速力で2人が座るソファーの背もたれ側に回り込み

「だからっ…その、俺とぬk」

「わっ!」

間一髪のところで、ふざけてみましたという感じで飛び出してみた

「うわっ」

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

突然現れた俺に、マングースはビクッと体を竦ませて驚いたような声をあげ、カズは飛び上がってまるで幽霊でも見たような悲鳴を上げた

「ぼ、ボス…びっくりした…どうしたんですか?」

「いや…入り口からお前らが見えたから、ちょっとイタズラしてやろうと思ってな」

「ボス…心臓に悪いです…」

驚いたろ?と笑って見せると、マングースはあぁびっくりした、と息を吐き…カズは口をパクパクさせながら目を丸くして俺を見ている
ここまで驚いているカズは初めてだ
話題が話題だったからだろうが…それにしても驚きすぎじゃないか?

「おいカズ、驚きすぎだろ?」

「ぼ、ボス…いいい今の話、聞いて…?」

軽く目の前で手を振って呆れたようにそういってやると、ようやく落ち着いてきたのかカズが恐る恐るといった様子で俺をチラリと見てきた
俺が立っているせいで自然と上目遣いになり、まるで誘っているような瞳の色香にくらりとする

「ほとんど聞いていないぞ?それがどうした?」

「い、いや…それならいいんだ」

その色香に鼻の下が伸びそうになるのをぐっと堪え、少しだけ不思議そうな表情をして診せれば、カズはどこか安心したように、ホッと息を吐いた
…マングースはよくて、俺はダメなのか?
その表情に、少しだけマングースへの嫉妬心が湧き上がり、やはり少し締めておくべきか?と考えていると

「あのさ、ボス…まだ予定なかったりする?」

カズが、どこかバツが悪そうにそう言いながら俺を見上げてきた
その目がまたも上目遣い…しかも完全に誘っている風に見えて、無自覚なのか計画なのか問いただしたい気持ちでいっぱいになる

「いや、暇だから雑誌でも読もうと思ってきたんだが」

「あ、あのさ…俺、予定潰れちゃって、それで暇なんだけど…」

ちらちらと不安げに俺を見上げるカズに、今すぐにこの場で押し倒したい欲求をどうにか押さえ込む
大方マングースとの話で俺との行為を普通のものと認識した途端、自分の無知や勘違いで俺を避けたことに罪悪感が沸いてきたのだろう
だが、一度断った手前言いにくいのか、気付いてくれと言わんばかりに言葉を濁している

「そうか、ならキルハウスで射撃に付き合ってくれないか?」

「あ、あぁ!いいぞ」

その表情の愛らしさに自然と笑みが浮かび、促されるままにそう訊ねれば
カズは勢いよく了承し、どこか安心したように笑ってて立ち上がった

「それじゃ」

「えぇ」

あまりにわかりやすい仕草に、可愛いなぁと眺めていたが、立ち上がった後にこりと笑って互いにアイコンタクトを取る2人に、一瞬にして僅かな嫉妬と物凄い危機感が胸を過ぎる
マングースといえば、カズの腹心中の腹心
カズが特に信頼している人間だ
万が一にもカズが抜きっこなぞに誘わないよう、一刻も早くしっかりと、けれどさりげなく釘を刺しておかねば
阻止したが、今も誘いかけていたしな

「なぁスネーク、どうせなら勝負しないか?」

「いいな、そのほうが張り合いがある」

キルハウスへと向かうカズの隣を歩きながら、さてどうやって泣き落としてほだして阻止しようかと、機嫌が良さそうに笑うカズを眺めながら必死で考えていた


















榊様リクエスト、抜きっこネイカズ続編でした!

…いやもうすみませ…本当にすみません…(土下座)
もうちょっとガッツリ誘わせようかとも思いましたが、我が家のスネークが許してくれませんでした
( ●ω・`)カズは俺のものだ!
マングースとの会話が書いてて凄く楽しかった!
というか、この2人を書くのが楽しすぎて、うっかり目的を忘れかけたとか内緒です(コラ)

多分キルハウスで汗を流した後、また2人で汗をかくハメになると勝手に予想してます

榊様、遅くなってすみません!
リクエスト本当にありがとうございました!

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